よんばば つれづれ

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北斎の娘と渓斎英泉が魅力的な『眩(くらら)』朝井まかて著

一昨年NHKで宮﨑あおいさんが主演したドラマの原作本である。ドラマも大変見ごたえがあって記憶に残る作品(2017年度の文化庁芸術祭大賞を受賞したそうだ)だったが、この原作も素晴らしいものだった。どこまでが史実でどこからが創作か分からないが、北斎はじめ娘の栄も、彼女がほのかに思いを寄せる善次郎(渓斎英泉)も、その他周辺の人物までがみな大変魅力的に描き出されている。

 

幼い時から絵を描く北斎の懐に抱かれて、絵の中に埋もれるようにして育った栄は、天才絵師の父の背中を追い、老年の北斎を支え、画業もかなり代筆していたらしく、彼女自身の名による作品はあまり残っていない。

 

台所に立ったり身を飾ったりする時間があれば絵筆を持ちたくて、お愛想もなく不器用で勝気な栄の造形も、惹かれているくせに、面と向かえばつい憎まれ口をきいている善次郎との関係も、私にはとても好もしいものだ。

 

酒も飲まず質素な生活をしていた北斎が、実際に常に貧乏生活をしていたらしく、その理由は定かでないが、この物語では栄の姉の遺児時太郎が、「我が孫なる悪魔」とまで北斎に言わしめる悪役に仕立てられている。

 

次々襲いかかる困難を、ひたすら絵にかける情熱で切り開いていくヒロインが爽快だ。生涯女としての人並みの幸せとは遠く、彼女が魅力的で大いに感情移入してしまっている読み手には切ない思いも強いが、さばさばとして明るさを感じさせる結び方に救われる。

 

以前『歌川国芳 猫づくし』のときと同じく、この物語を読んでいると、作中に出てくるさまざまな作品をまたじっくり観賞したくなった。

紹介せずにいられなかった『歌川国芳 猫づくし』風野真知雄著 - よんばば つれづれ

 

 

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表紙を飾るのは数少ない葛飾応為(栄)の作品「吉原格子先之図」。