よんばば つれづれ

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改めて舌を巻く安達祐実さんの力『100分で名著』

6月の『100分で名著』は「アルプスの少女ハイジ」だった。テレビ放映されたアニメは見ていないけれど、子供のころ本で読んだような気もするし、なじみ深い児童書だと思っていたが、アニメには描かれなかった暗い一面も含んだ、なかなか深い物語なのだそうだ。早稲田大学教授でドイツ文学者の松永美穂さんの案内で、大人の視点で読み解くハイジが面白かった。

 

そして今回のこの番組をより一層魅力的にしていたのが、俳優安達祐実さんの朗読だ。天才子役と騒がれたが、その子役ぶりを私はほとんど見たことがない。しかし「女優安達祐実」となってからの彼女を見ると、シリアスもコメディも、善人役も悪人役も、何を演じてもさすがと思わせられることが多い。

 

いつもこの番組は作品を朗読する人が大きな魅力の一つではあるが、今回の安達さんはそうした中でも傑出していたように思う。ハイジやおじいさん、ペーターのおばあさんなどさまざまな登場人物を、わざとらしい声音を使わず、自分のピッチの高低とスピードだけで見事に演じ分けた。すっかり彼女の朗読の世界に引き込まれ、非常に深い感動を覚えた。

 

欲を言えば、鼻濁音を使えていたらもっと素晴らしかったと思うが、今や鼻濁音はアナウンサーでも歌手でも使える人は少ないし、日本語の発音はどんどん単純化しているようで、「を・wo」の音も鼻濁音も、絶滅危惧の音なので仕方ないかとも思う。

 

実はハイジのおじいさんは、過去に賭け事やお酒で全財産を使い果たし、傭兵になって姿をくらましたという暗い過去をもっているとか、クララの医師であるクラッセンさんが実は後半の物語の鍵を握っていること、ペーターの中に深い心の闇があり嫉妬に駆られて暴力性を発動することなど、アニメでは描かれない意外な事実が描かれているというこの原作を、できることなら松永先生の翻訳(雑誌の連載ではなさっているが書籍化はまだらしい)で読んでみたいものだと思う。

 

 

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