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よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

誠実に生きる『二人静』盛田隆二著

沈まぬ太陽』に続いて、またまた分厚い上下二巻本の『女系家族』を読んだ。同じく山崎豊子さんの作品で、大阪の老舗木綿問屋を舞台に、遺産相続をめぐって、相続人の三姉妹に妾や大番頭や周辺の人物がからむ、欲得の渦巻く物語だ。

 

そんな金や権力の亡者たちの物語が続いて少々疲れた心が、この『二人静』を読んだらスッキリ洗濯されて真っ白に洗い上がったような気分になった。

 

主人公町田周吾は食品会社に勤める32歳。看護師だった母がパーキンソン病であっけなく亡くなってしまうと、それまでお茶一杯すら自分でいれたことのない亭主関白だった父恭三は、生きる気力を失ったように無気力な日々を送るようになり、71歳にして認知症の症状がみられるようになる。

 

間もなく恭三は周吾が仕事に出た後一人で家におくことに危険を感じさせるまでになり、施設に入れざるを得なくなる。何百人もの待機者のいる長期受け入れ施設には入れず、とりあえず老健施設に入所する。そこで父の担当になるのが、夫の暴力から逃れひとりで小学4年の娘を育てる乾あかりだった。あかりは質素な感じの女性なのだが、娘は驚くほどの美少女。けれどもその少女は場面緘黙症という障碍を抱えていた。

 

実は周吾も10年ほど前初めての恋で手ひどい痛手を受けており、もう生涯女性を愛することなどできないという思いを抱えている。子供の頃は吃音で苦しんだ経験もあり、会社の商品企画部で、ある程度将来に希望が持てる立場になった今も、人との付き合いはあまり得意ではない。

 

こんな、自分の思いを伝えることより先に相手の気持ちのほうを心配してしまうような不器用な登場人物たちの、悩みの多い日々を丁寧に描いた物語だ。

 

著者は私と大して違わない年齢なのに、物語の瑞々しさに驚く。「本が好き!」に連載されたのは7~8年前のようなので、執筆当時はまだ50代だったわけだが、それにしても主人公のあかりに対する思いは、初恋の少年のようで微笑ましく、読み手は全力で応援したくなってしまう。

 

今まで読んでいた小説の世界には利己的な人物ばかりだったけれど、この物語の登場人物たちは、だれもが心に傷や悩みを持ち弱い。でも、自分の大切な存在を守るためにはしなやかに強くなる。著者はそんな人々を優しく見守り、万々歳!ではないけれど、希望の感じられる終わり方にしている。

 

 

昨日のNHKスペシャル『マネーワールド資本主義の未来』ではこれからの可能性として「共有型資本主義」と「共感」という言葉を上げていた。そうして番組は、アメリカの大富豪スタンリー・ハバードが自身の豪華ヨットの上で周りのヨットを見て言った、「いろんなヨットがあるね。小さなものもあれば中くらいのもある。でもみんな私と同じように楽しそうだ。いやもしかしたら私より楽しいかもしれない・・・」という言葉で締めくくられた。

 

私には『沈まぬ太陽』や『女系家族』に登場した権力者や大金持ちたちは少しも幸せそうに見えなかったが、この『二人静』の人物たちは権力もお金も大してないし、決して楽ではない生き方を選ぶ人たちなのだけれど、かけがえのない幸せを見つけているように感じた。

 

 

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ちょっと残念だったのが、明らかに格助詞の抜けている箇所が複数あり、また同じ見開きの右側のページでは「非難」なのに、左側では「批難」になっているのが見られた。離れていれば気にもならなかったのだろうが・・・。いま「校正」を扱ったドラマが話題になっているようだが、やはりベテランの校正者は足りていないのかな?