よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

『正義をふりかざす君へ』真保裕一著

今年初のミステリー。著者の作品はかなり以前、音訳ボランティアをしていた時に校正者として触れたことがあったが、自分で読むのは初めてだ。

主人公は元新聞記者、愛した女性がたまたま地元の大実業家の娘だったため、記者を辞めて入り婿としてホテルの幹部になり、辣腕の義父から実業を厳しく叩き込まれる。そのホテルで食中毒事件が起きて幼女がなくなり社員の一人が責任を感じて自殺、内部事情を新聞にリークしたのが元その新聞社の記者だった主人公だという噂が流れ、離婚し追われるように故郷を去る。そのスキャンダルから7年の月日が流れ、二度と戻らないと思っていたその故郷に訳あって主人公が戻ることからさまざまな事件が起きていく・・・。

タイトルの「正義をふりかざすもの」は新聞、テレビなどのマスコミだろう。その横暴さを問うテーマは良いと思う。文章もしっかりしていてグイグイと引っ張って読ませる力があった。意外な展開も用意されているし、選挙のあり方とか一度は愛し合いながら次第に溝を作ってしまう夫婦というものについても考えさせられる。

姿の見えない敵にあきれるほど執拗に主人公が付け狙われるのだが、その理由が彼自身一向に分からない。さっさと手を引けば終わるのだけれど、主人公もしつこくてどこまでも真相を追及していく(まあ、そうしなければ話は終わってしまうのだが)。敵に襲われるたびに一歩ずつ真相に近づいていったようなもので、ほおっておけば何もわからなかったんじゃないのと思ってしまう。悪事を働く者はそれくらい疑心暗鬼になってしまうのかもしれないが、物語の根幹となる動機がいまひとつピンとこないのは残念だった。

主人公が謎を追っていく中で、マスコミの犠牲になったさまざまな人が登場する。報道の間違いがあっても訂正もされなかったり、したとしてもほんの小さな目にも止まらないような記事にしかしない。弱い立場の人なら、一度狂わされた人生を立て直すこともできない。

私の知るこの20年ほどの間にも、犯罪の被害者でありながらあることないことマスコミに取り上げられ、満身創痍でそれでも権力の横暴に負けず戦った勇気ある被害者や遺族の方々がいる。その方たちの努力でいくらか改善はされたようだが、まだまだ立ち入り過ぎや明らかに不要と思われる報道が多い。知りたがる人々がいることも事実だろう。マスコミはおのれの力をしっかり自覚し、その力を正しく使ってほしいし、私たち一般市民も何を知るべきか、自分の頭でしっかり考えたい。政治家にしろ、ニュースにしろ、結局自分たちにふさわしいものが与えられるのだから。