よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

京のみやびと茶道を堪能『雨にも負けず粗茶一服』松村栄子著

面白いと思ったらやはり人気があるようで、シリーズ化されているようだ。

 

『至高聖所』で芥川賞を受賞したという著者(寡聞にして存じ上げず)の、青春エンターテインメント小説で、楽しくスイスイ読めてしまう。花嫁修業(死語!)でほんの少し習っただけの私は、あまり分からないので流してしまったけれど、茶道やお道具に詳しい方なら、じっくり味わって読まれるかもしれない。

 

武家茶道坂東巴流」の家元友衛家の跡取りである遊馬(あすま)は18歳。幼いころから弓道、剣道、茶道を教え込まれてきたが、古臭い家風に反発し、髪を青く染めてバンド活動にうつつを抜かし、あげく受けた大学はことごとく落ちてしまう。

 

このままでは京都の戒律厳しい寺に修行に出されかねないと、友人の旅行に同行して出奔を決める。しかしなぜか行き先は遊馬の苦手な京都だった。こうして、金銭的な頼みの綱は持ち出した家宝の茶杓1本という主人公の、京都での波乱の生活が始まる。

 

東京の友衛家の人々もユニークだが、京都の登場人物はさらに面白い。主人公が居候させてもらう畳屋の昔気質な親方や、茶席の菓子を見事に作ってしまう僧侶、極めつけは平安の公家装束のような身なりで「・・・おじゃる」などという言葉をしゃべる高校講師の今出川幸麿だろう。

 

個性的な登場人物が、京都の町や祭りを背景に、お茶会を催したり骨董を挟んでの駆け引きを演じるかと思えば、大人の恋やら青春の恋やらもある。そんななかで振り回されながら、ちゃらんぽらんだった遊馬が少しずつ変わっていく。

 

古都の風情や柔らかな京ことばに包まれながら、さまざまな茶席のしつらえやお道具の描写を楽しむことができる。浮世離れしたような登場人物たちなのに、みな愛すべき人ばかりで、彼らの行く末が気になってどんどん引き込まれて読んでしまった。

 

本人自身は格別気を入れて習っていたわけではなくても、物心もつかないような頃から仕込まれた所作というものは、見る人が見ればすぐ分かる。いかにも今どきのちゃらちゃらとした主人公だが、心根がまっすぐで憎めないのと、ふとした折に見える、武道や茶で鍛えられた「芯」が、軽い見た目とのギャップもあってより魅力的に感じた。

 

 

人は環境を選んで生まれてくることはできないが、人生は環境に大きく左右される。生きていく基盤となる「芯」を培ってもらえる環境もあれば、生きることさえ困難な環境に生まれてしまい、尊い命を幼くして散らしている子供たちがいる。

 

そうした不運な子供たちも、報道される美しい名を見れば、生まれた時には愛に包まれていたのだろうと想像される。なぜその美しい名を与えた親が、そうした行為に走ってしまうのか。そこのところを真剣に考える必要がある。緊急避難的に児相や関係各所の対応を見直す必要はあるが、結果的に「鬼」になってしまった親たちもまた、「環境」の結果ではないだろうか。

 

そんなことをも考えさせられた。

 

 

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