よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

『あんじゅう』宮部みゆき著

「三島屋変調百物語」の二作目とのことで、『おそろし』がこれの前作になるようだ。その作品は知っていたがそのような関係になるとは知らず、いつものように市民館の書棚でこの本を見つけこちらを先に読んでしまったが、ちゃんと序でこれまでのいきさつの簡単な説明があるので、全然問題なく読めた。

不幸な経験から深く傷つき笑うことも忘れた17歳の娘おちかが、預けられた叔父の家の奥座敷でわけありの人物から不思議な話を聞き集めるという趣向で、4編の話が収められている。

宮部さんお得意の江戸ものの怪異譚でどの話もそれぞれ面白いが、とりわけ第一話の『逃げ水』と第三話の『暗獣』が可愛らしくて切なくて秀逸だ。どちらも出てくる妖物が愛らしいし、それと関わる人間が優しい。それなのに一緒に仲良く存在することはままならない。『暗獣』の「くろすけ」はことに無邪気でけなげで、とても心に残った。

新聞連載時のものだろうか、南伸坊さんの楽しいイラストがふんだんに入っているのも贅沢な喜びの一つだ。本文の下を使ってページの端まで印刷するという珍しい挿し絵の入れ方がとてもお洒落な感じがする。さぞやお値段が・・・と思ったけれど、本体価格1800円と560ページ余の本としてはごく普通の値段だ。昨日紹介した有川さんの本といい、やはり電子書籍に対抗して?と思ったが、この『あんじゅう』に関しては、電子ブックもデジタルならではの企画があるらしい。紙の本もデジタル図書もこれから知恵を絞り合って、両者それぞれに特長を生かして、とても面白いことになっていくかもしれない。