よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

『ストーリー・セラー』有川浩著

図書館戦争』に次ぐ有川作品2作目。白い箱に紺のリボンをかけたプレゼントという体裁の装丁が素敵だ。図書館の本なので帯はないが、おそらく「愛する人へのプレゼント・・・」などという言葉があったのではないかと思う。

で、内容はまさにストーリー・セラーの妻から夫への渾身のプレゼント、という趣だ。2008年に小説新潮別冊の同名のアンソロジー集で発表されたsideAのお話に、新たにsideBの話を書き下ろして単行本として出版されたのだそうで、やはりもともとの創作であるsideAが素晴らしかった。

会社勤めをしながら密かに物語を書いている主人公。大学時代に入っていた文芸サークルで手ひどい体験をしておりトラウマになっている。それゆえ自分の書いたものに異常なほどの劣等感を感じているのだが、彼女はそれでも書かずにはいられない「ものを書く側の人」だ。

同じ会社で働く男性がひょんなことから彼女のUSBメモリの中の彼女の作品を読んでしまい・・・ということから物語が動き出す。彼女と彼女の紡ぐお話をこよなく愛する男性と、絶対的な彼の支えを得て作家として成功していく女性。けれどもその先には幸せだけではなく、それをはるかに凌ぐほどの悲しい出来事が待っていた・・・。と、これ以上はネタバレになってしまう。

王道のラブストーリーとも言えるが、還暦を過ぎた私でさえ心を掴まれてしまうのはなぜだろう。人物造形が魅力的だからだろうか。彼女が気持ちよくいい仕事ができる状態を作ることが自分の幸せ、書き上がった作品を第一番に読めることが無上の喜び、と言う夫。有川さんの旦那さまってこういう人なんだろうか、なんて想像してしまう。どこまでが現実でどこからが想像の産物なのか、有川さんの策略にまんまとはまって心地よく振り回される。

難病ものなのだけれど、読み終わっての気持ちは暗くはない。いっぱい泣いて、素晴らしい夫婦愛に心打たれて、結構すっきり。そしてやっぱり思うのは「仲良きことは美しきかな」。不倫したり罵り合ったり傷つけ合ったりはては殺し合うことも珍しくないほどの時代だからこそ、フィクションくらいこうしたとことん愛し合い信じ合い支え合う愛と向き合えると嬉しくなる。小説でもドラマでもいつも思うのだが、ただ現実を写すことが「リアル」ではないと思う。フィクションだからこその物語を読者や観客を心地よくだまして信じさせ、「うっそー」と覚めさせずに話に引き込む手腕の中に「リアル」は存在するように思う。

sideBはAの対になるお話で、こちらは夫のほうが病気になる。こちらもやはり夫婦愛が素晴らしくそれなりに楽しめるが、少し技巧的になり過ぎたきらいがある。

図書館からの借り入れ本なので返却しなければならないが、この美しい装丁の本がテーブルの上にポンと乗っているのは、ちょっといい眺めである。