よんばば つれづれ

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林業と山里の暮らしが魅力的な『神去(かむさり)なあなあ日常』三浦しおん著

作品は2007年~2008年に徳間書店のPR誌『本とも』に掲載され、2009年に単行本として出版されたものだ。映像化しても魅力的なものになりそうだなどと考えながら楽しく読んでいたのだが、やはり5年前に染谷将太くんの主演で映画化されていた。

 

いい加減な高校生活を送っていた主人公の平野勇気は、卒業と同時に担任教師と母親の口車に乗せられる格好で、三重県の山の中に林業の研修生として送り込まれる。携帯電話の電波も圏外になってしまう山奥で、まるで山仕事のために生まれてきたような野生の男ヨキの家に居候しながら、林業の仕事を教えられていく。

 

仕事を始めて1か月もたたないうちに、すきを見つけて勇気は脱走を試みるがあえなくヨキに連れ戻され、「この村の最弱伝説になるから、もう少し頑張れ」と諭される。それでやる気になったというよりは、村の学校の先生をしている、「おやかたさん」の義妹の魅力にまいって留まることにする。

 

こんなふうにして始まる、勇気の山での最初の1年を綴った物語だ。ヨキが放り出していたインターネットにはつながっていないパソコンを使って、勇気が記録しているという体を取っているので、気軽な話し言葉だし、難しい表現も凝った描写もない。けれどもいきいきと描かれる山の様子や、お世辞やお愛想はないけれど温かで魅力的な人々が味わい深く楽しい。

 

難しい山の仕事を覚え、時には命の危険も感じながら、村のしきたりや祭りを経験し馴染んでいくうちに、過去の出来事ゆえに勇気に対して懐疑的だった人にも受け入れられ、勇気自身も、知らず知らず山での暮らしに愛着を感じ始める・・・。

 

 

気軽に楽しく読める内容なので、ぜひ今まで読書と縁のなかったような若い人にも読んでもらいたいと思う。どこにも居場所がないと感じている人が、ひょっとしたら「自分のいるべきところを見つけた!」と思えるかもしれない。

 

現実は小説以上に厳しいかもしれないが、でも、山の仕事は少なくとも明るくなくてはできない。時間外労働が月に100時間などということはありえない。誰にでもできることではないかわりに、ある人にとっては思いがけなく居心地の良いところになる可能性もあるだろう。

 

農業とか林業とか、安い外国産のものとの競争で疲弊している産業だけれども、だからといって全く無くしてしまえる仕事でもない。日本の林業は山の地権者が非常に入り組んでいるため、機械化もなかなか進めにくいと聞く。

 

折りしも近頃相次ぐ自然災害で、山林の手入れや保全の大切さも見直されている。この物語で、林業や山の暮らしの魅力が少しでも多くの人に伝わるといいなと思う。

 

 

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