よんばば つれづれ

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『雨のち晴れ、ところにより虹』吉野万理子著

夫婦、母娘、女友達、初恋の人・・・など、大切な人とのちょっとした心のすれ違いと和解を描く6つの短篇集。第五話の『ブルーホール』だけが少々趣が異なるけれど、そのほかの作品には、共通の人物がさりげなく登場していたりして、鎌倉や逗子を舞台にして、同じような時間にその場所で生きている人々の、暮らしの断片を切り取った物語になっている(『ブルー・・・』にも他の作品と共通と思われる自然現象の描写がある。そういうものを探しながら読み返すのも楽しい)。

 

血にまつわる描写が少々私の苦手な部分だが、小学校時代の初恋の二人を描いた表題作、『雨のち晴れ、ところにより虹』は特に良かった。ヒロインが100キロもあろうかと思われる体型なので特殊メイクが必要になりそうだけれど、映像化しても良い作品ができそうな気がする。

 

そして、それ以上に心を動かされたのが、最後の『幸せの青いハンカチ』だ。大学時代に卓球を通じて知り合った佳苗と佐和子。共学校から入学した佳苗と、小学校からずっと女子校で育ち、エレベーターで進学してきた佐和子とは、環境の違いはあるがなぜか気が合い、親友の付き合いをしていた。

 

佐和子の結婚式で友人代表としてスピーチをする段になって、新郎側の友人のスピーチの一節から、香苗は親友だと思っていたのは自分のほうだけだったのだろうかと疑問を抱く。式のあと花嫁の意表を突く大胆な行動で・・・という展開で、佳苗にも佐和子にも好感を持ち、すっかり感情移入していた私は、心地よい感動に包まれた。

 

なんだか日々心がザラザラするようなニュースが多く感じて、本を選ぶとき知らず知らず、安らぐもの、優しくなれるものを求めている。題名に惹かれて選んだ知らない作家の作品だったが、「当たりを引いた」気分で嬉しい。

 

 

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