よんばば つれづれ

現在はこちらで書いてます https://hikikomoriobaba.hatenadiary.com/

心地よい端正な超短編集とエッセイ『空の冒険』吉田修一著

直前に読んだのが、数年前に本屋大賞を受賞した作家の近刊で、これが受賞作とは作風が違うのかも知れないが、小学生か中学生の作文のようなしろもので、いちおう途中離脱はせず読み通しはしたものの、読み終わったときは変な疲れ方をしていた。

 

そのあとで本書を手に取ったので、ああ、文筆家の文章だ!と感動した。ANAグループの機関紙『翼の王国』に連載された短編小説12作と、エッセイ11作が収録されている。航空会社の冊子ということにちなんでか、ほとんどが何かしら旅につながった物語だったり文章だったりする。

 

12の小説はすべて11、2ページのごく短い作品だ。大きく物語が動くことも、激しい感情が描写されることもなく、登場人物たちもみんなどこにもいそうな人たちばかりだ。それなのに、物語を一つ読み終えるごとに、なにかしみじみとして静かな感動が心が満ちる。丁寧に作られた上品な砂糖菓子のようで、大切にゆっくり味わいたい気分になる。

 

エッセイの最後に「『悪人』に出会う旅」という文章があり、そういえばテレビでこの映画を見たなと思いだした。妻夫木聡さんと深津絵里さんの好演もあって、なかなか良い作品だった。そうか、ああいう物語を書く方なら、やはり心優しいわけだと、本書を読んで感じた著者の人柄と映画の世界とが気持ちよく融合した。

 

 

f:id:yonnbaba:20190924173804j:plain