よんばば つれづれ

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人間の愚かさと崇高さを考えさせる『ヒトラーの忘れ物』

深夜に放送された映画を録画して観賞。2015年デンマークとドイツの共同製作作品。原題はUnder sandet(Land of Mine)。

 

舞台は1945年5月、ドイツが降伏したばかりのデンマークだ。捕虜となったドイツ兵たちが延々と歩かされている道を、1台のジープが通りかかる。一人の兵士が抱えているもの(デンマークの国旗かと思う)に目をとめた運転者は車を止めてその兵士につかつかと歩み寄り、「それはお前の持ち物か?!」と怒鳴りつけいきなり激しく殴りつける。目をそむけたくなるほど乱暴に何度も・・・。

 

その男はデンマーク軍のラスムスン軍曹で、このシーンでいかにこの男がドイツ兵に対して非情であるか強く印象付けられる。軍曹の任務は、ナチス・ドイツが砂の中に埋めたとされる200万個の地雷を、ドイツ兵を使って撤去させることだった。

 

軍曹のもとに配属されたのは十数人のドイツ兵。しかし全員高校生(なかでも、双子の兄弟など中学生かと思われる頼りなさ)くらいの少年兵だった。それでもノルマ達成のため少年たちに問答無用の厳しい態度で接し、作業を進める。

 

一つ間違えば命を落としかねない危険と隣り合わせで、しかも1時間に何十個などと責められる過酷な作業をしながら、食べ物は何日も与えられず少年たちは飢えにも苦しみ、近所の農家に家畜の餌を盗みに入る。しかしその餌にはナチスに恨みを持つ農家の主婦がわざとネズミの糞などを混ぜていて、それを食べた彼らは激しい下痢に苦しむ。

 

何日も役務者と監督するものの立場で生活を共にするうち、軍曹は次第に少年たちに同情し、用事で部隊に出かけた折りには食料を盗んで戻り、少年たちに食べさせる。

 

そうした日々が続いたおかげで、飢えて弱っていた少年たちも、作業の休憩時には軍曹とサッカーに興じるほどの元気を取り戻す。信頼関係が生まれて穏やかな時間を過ごす彼らを悲劇が襲う。軍曹の愛犬が、処理済みの区域になぜか残っていた地雷を踏んで吹き飛ばされてしまうのだ。

 

数を確認し間違いなく処理したと少年兵たちは言うが、愛犬を失った悲しみから、軍曹はまたもとの非情な人に戻ってしまう。

 

小さな生き物を愛する優しい双子の兄は、作業中に二重に埋められていた地雷の犠牲になって吹き飛ばされ、一人残された弟は精神を病んだようになってしまったり、家畜の餌に故意に糞をいれた農家の主婦の娘が、地雷未処理の区域に入り込んでしまうなどのエピソードも綴られる。

 

ほとんどのシーンが地雷撤去などの地味で過酷な場面であり、見るのが少々辛い部分もあるが、少年たちが巻き込まれた運命の過酷さや、彼らを使役する軍曹の辛さも十分に感じさせ、戦争のむごさを見事に描いている。

 

ナチスの犯した罪を糾弾しながら、それに苦しんだものも立場が代われば似たような罪を犯してしまうという点を鋭く突く。そのいっぽうで、戦争という異常な状況の中にあっても、人と人は分かり合えるし、最後は、自分の信義をどこに置くのかが問われると訴えてくる。深夜の時間帯でもあり、さして期待もせずに見たが、素晴らしい作品だった。

 

 

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この映画は地雷撤去を強要された2000人以上のドイツ兵のうち、約半数が命を落としたり手足を失ったという史実をもとに作られたそうで、捕虜、しかも相手は少年兵なのにこのような作業をさせるのは国際法違反ではないかと思ったが、デンマークはドイツの軍事保護国であり交戦国ではなかった、つまり敵国兵ではないので、ジュネーブ条約の適用外だったようだ。