よんばば つれづれ

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作家と編集者の世界が魅力『Miss You』柴田よしき著

主人公の江口有美は文潮社「小説フロンティア」の編集者。東大卒の26歳。東大出を鼻にかけない控えめな性格や「天然」と言ってもいい程度の鈍感さで、あまり周囲の妬みを買うこともなく、ほどほどで平穏な日々を送ってきた。担当した本の装丁で知り合ったデザイナーの丈(たけし)にプロポーズされたばかりで、幸せな未来を感じていた。

 

ところが、ある日編集部に、かつて時代の寵児のようにもてはやされたものの、不幸な事件をきっかけに作品が書けなくなり荒れてしまっている作家から電話が入る。このあと、その作家が電話でなじった先輩編集者が殺され、有美自身も階段からつき落とされたり、婚約者の丈のもとに、有美と思われる女優が出演しているアダルトビデオが送り付けられるなどの不穏な事件が続くようになる・・・。

 

柴田よしきさんというと、どうしても最初に読んだ『春子さんの冒険と推理』のほのぼのタッチが印象深く、それを期待してしまうのだけれど、この作品は一般的なミステリーで、ほのぼの要素はない。私は、善意の人としか思えない有美がなぜこんな理不尽な目に遭わなければいけないのか、犯人は誰なの?!という思いで、夢中になって読んでしまった。普段なるべく10時には休むようにしているのに、夜更かししても読み終えずにはいられなかった。

 

ミステリーとしてももちろん面白いが、この作品の一番の魅力は、出版や編集という世界を舞台にしたところだろう。登場する作家たちは非常に個性豊かで、対照的に有美は主人公だというのに、性格も容姿も薄い印象だ(でも、だからといって魅力を感じないわけではない)。そして、さまざまなカップルが登場してさまざまな愛の形を見せてくれる。

 

出版社主催の新人賞レースにまつわる話や、小説を書くということは、何を書いても結局作家自身をさらけ出すことになり、自分の身を削るような厳しい行為であるという言葉などが強く印象に残る。

 

ものを書くという行為の厳しさを知り、愛の形について考えさせられ、周囲の人とどう関わって、人生をいかに生きるかまで考えさせられる物語だった。

 

 

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