よんばば つれづれ

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横山秀夫さんの原点『ルパンの消息』

半落ち』『クライマーズハイ』『64』・・・と作品が次々映像化されている横山秀夫さんの、サントリーミステリー大賞で佳作を受賞したデビュー作だ。受賞したのは1991年だけれど、作品は出版されることなく、本作は15年後に改稿出版されたもの。

 

昨日見守り隊の会議で小学校に出かけたので、その敷地内にある校区市民館によって借りてきた。二段組で330ページという長編作品だが、昨日の夕方から読み始め、夢中で読破してしまった。

 

殺人罪の15年の時効が明日いっぱいで成立するという夜、忘年会に沸く刑事たちのもとに、信頼できる筋からということでひとつのタレコミ情報がもたらされる。15年前自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人で、しかも犯人は教え子の男子高校生3人だという。たった24時間で真相に辿り着き、訴追まで持ち込めるのか、刑事たちの総力を挙げた捜査が始まる。

 

問題の3人のツッパリ高校生を追っていくと、当時その3人が決行した「ルパン作戦」という、破天荒な期末テスト問題奪取計画が浮かび上がる。女性教師と3人の高校生を取り巻く生徒や教師、3人が入り浸っていた「ルパン」という名の喫茶店のマスターなど、秘密や闇を抱えていそうな人間が入り組んで、次々と捜査線上に浮かぶ。

 

3人のうち2人はすぐに見つけ出せ、供述も始めるのだが、当時の状況が分かって来るにつれ、謎はますます深まっていき、読者はグイグイと物語に引き込まれてしまう。昭和史に残る未解決事件「三億円事件」まで絡ませ、15年前の人物たちはおろか、現在の取調室の刑事たちまで魅力的に描き分けながらストーリーは進む。はたして時間内に刑事たちは犯人に辿り着けるのか・・・。

 

売れっ子になってからよりも、デビュー作のほうが優れているということは少なくないし、この作品の場合15年後の横山氏が手を入れて出版した、思い入れもひとしおであろう作品なのだから、面白くないはずがない。読みながら、これも映像化したら良いものになりそうだなと思っていたら、やっぱりすでにWOWOWでドラマ化されていた。

 

じつは感想はアップしなかったけれど、先月同じ横山氏の『出口のない海』も読んでいた。人間兵器「回天」の搭乗員を主人公にしたこの作品もなかなか良かったのだが、読後もたもたと日を過ごしていたら、なんだかまとまらなくなってしまった。

 

出口のない海』でも主人公と銃後の乙女の純愛が描かれていたが、『ルパンの消息』も、ミステリーの醍醐味はもちろん、人の生き方を変え、時を超えて人を支える、「愛」の描き方にも心が震えた。

 

 

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