よんばば つれづれ

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佐和隆光著『経済学のすすめ』は怒りと祈りの書

hatehei666さんが紹介していらした『経済学のすすめ』を読んだ。この本の内容をひと言でいえば、「人文社会系の知を排斥する国家は、おのずから全体主義国家に成り果てる」ということではないだろうかと思う。

 

2004年度に国立大学が法人化されてから、「中期目標・計画」の文科省への提出が義務付けられ、目標の達成度に応じて次の中期の運営交付金にメリハリをつけるという方針が打ち出された。

 

幸か不幸か日本の文教政策が柔軟性を欠いていたことなどもあって、実際には交付金にメリハリをつけた形跡は認めがたかったそうだが、2015年6月には、各国立大学の学長宛てに「教員養成系学部・大学院、人文社会系学部・大学院については、組織の廃止や社会的要請の高い領域への転換に積極的に取り組むよう」との文部科学大臣通知が届いた。

 

このところのこうした人文社会系の学問を軽視する政府のやり方に、著者は心底から怒り、そうした教育行政のはてに起こるであろう、民主主義の衰退や日本の国力の凋落を憂えている。

 

アダム・スミスからマルクスケインズ、そしてピケティまで、経済学そのものの時代的変遷や、日本、アメリカ、ヨーロッパなど、国によっての経済学のとらえ方の違いなどにも触れているが、なんといっても、効率や短期間に結果の出る学問ばかりを追っていてはならないという主張が全巻を貫いていると感じた。

 

私自身もなんとなく経済を勉強する人というのは、人生を損得でとらえる計算高い人のような印象があるが、著者はこれから経済学を学ぼうとする若い人たちに、「真の学力の中核に位置する思考力・判断力・表現力を身に付けるにあたり、本来経済学ほど役に立つ学問は他にない」と言う。

 

「人文知と批判精神の復権」言い換えれば「モラル・サイエンスとしての経済学の復権」によって、経済学は真に人間の幸福に資する学問になりえるのだという著者の叫びは、教育をつかさどる人たちのもとに届くであろうか・・・。

 

 

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