今年最後の古文書講座を受けた帰り道、ちょっと冷たい風が強いけれど歩いていれば温かくなるだろうと、今日も駅まで路面電車をやめて歩くことにする。
いつものように駅ビルのレストラン街でお昼にしようか、駅の西側まで行ってゆったりしたカフェでランチにしようか・・・などと考えながら歩いていると、気になる看板を発見した。
「身体にやさしいお母さんのランチ」。いいなあ。お店の佇まいもとっても気をひかれる。
入ってみることにした。
中では70代か80代と思しき女性客が、店主のお母さん(70代くらいか。私から言えばお母さんでは申し訳なく、お姉さんと言うべきだが)と話していた。一人では大変でしょと言われた店主の方が、「一人で気楽にやるのがいいのよ」と答えている。人を頼めば気も使わなきゃいけない、自分だけなら自分の好きなペースで、お客さんが立て込んだら「時間かかりますけど」と言えば、急ぐ方は出ていかれると。
うん、お一人でのんびりやれそうなお店・・・と思っていると、私のあと次々お客さんが入ってくる。小上がりのテーブルこそ空いていたが、たたきの方の大きな二つのテーブルはじきに埋まって、私は内心あらあらお母さん大変・・・と思ったが、ほとんど常連さんばかりらしく、店主のお母さんにもお客さんにものんびりした雰囲気が漂っている。
街なかの店ほどではないけれど、それでもほどなくして注文したランチが出てきた。お客さんみんな「ランチ」なのだ。だいこん旨煮と鶏の磯揚げの違いこそあれ。そもそもメニューなるものもない。たぶん「深夜食堂」みたいに、注文すればできるものなら応じてくれるのかも知れないが。
私の注文した「イカとだいこんの旨煮」のランチ。旨煮の上に振りかけられているのはチンピ。
右側のサツマイモの煮物に乗っているのはレンシ、蓮根の実だそう。左側はとうがんにクコシ。レンシもクコシもチンピもすべてお母さんが自分で干したものだそうだ。干したものをまた戻して使うのが体にとても良いというのが薬膳の考え方とか。
今日は私ともう一人50代くらいのビジネスマンが新顔だったからか、このボードを取り出して薬膳の説明をしてくださった。お母さん、薬膳とフードコーディネーターの資格もお取りになったのだそうだ。
ビジネスマンの方は、「前からこのお店が気になっていたけれど、若い人たちと一緒にお昼をとることが多いのでなかなか来るチャンスがなかった。今日は一人だったのでやっとここに来ることができた」と言っていた。
街なかの店で相席になると気まずい沈黙が支配することが多いが、この店ではみんな一人客なのだけれど、大きなテーブルを囲んで和気あいあいだ。私の向かい側は酸素吸入器をゴロゴロ引いていらしたおじいちゃま。週3日はデイサービスに行って、それ以外の日は毎日ここでお昼になさるそうだ。ここなら毎日食べても飽きないだろう。健康的だし。
私の右斜め前にいらしたおじさまが帰ったあと90歳だと知らされてビックリ。とてもそのお歳には見えなかった。薬膳効果?別のおじさま(おじいさま?)は自宅の庭の侘助を持っていらして、テーブル上の花瓶に活けられたものを取り換えている。お母さんにちょっとハサミ貸して・・・と声を掛けながら。
料理を待っている私の目の前で「ポタリ」とまさに音を立てて散ったピンクの侘助。このあと新しい白いものに交換された。店中クリスマスの飾りつけがいっぱい。とても80歳近い(であろう)お母さんが一人でやっている店とは思えない、若々しく可愛らしい雰囲気に満ちている。
コーヒーを飲む人にはサービス(待たせたりするからとのこと)でついて、さらに今日は常連さんが持っていらした三ケ日ミカンを、その場に居合わせたお客さんみなに1個ずつくださったので、デザートにいただいた。甘くておいしかった。これで730円也。
今年はもう講座がないけど、これから市電で駅まで行かずに、こちらに伺いますと言って店を出た。歩くとやっぱりいいことがある。