よんばば つれづれ

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涙が止まらない!『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』

市民館に5月にリクエストを出した。先月、忘れられているんじゃないかと問い合わせたら、中央図書館に聞いてくれて、「あと3人だそうです」と返事をもらった。そうしてリクエストから7か月目、やっと今日手にして、一気に読んだ。引き込まれてしまった。

 

読んでいる途中もたくさん感動したけれど、読み終わった今、さらに深く心を揺さぶられている。「面白い経済の本らしい」としか思っていなかったのだけれど、なるほどこれは人を引き付けずにはおかない魅力のある本だった。

 

岡山の田舎で、砂糖もバターも牛乳も卵も使わず、天然の麹菌を使って「和食パン」を作るパン職人渡邉格さんの著書。現代の腐らない食べ物の不自然さと同じように、財政政策や金融政策で際限なくお金が増えていく、現代の資本主義社会の不自然さ不健康さについて語る。

 

けれども経済本によくある専門用語も観念的な話もほとんどなくて、マルクスミヒャエル・エンデの『モモ』や『風の谷のナウシカ』とが同列で語られる。30歳まで自分が何をすべきかもわからずフラフラ生きていたという著者が、客をだまして儲ける会社を飛び出し、ブラックな労働を強いるパン屋に疑問を抱き、会ったこともない祖父のお告げに導かれるようにして進んだ天然酵母によるパン作りの道で気付いたことが綴られる。

 

天然の酵母から麹菌に進み、天然麹は有機栽培米ではうまく働かず、自然栽培米で初めて本領を発揮する。しかもなるべくその菌が生息した場所に近いところでとれた米ほど相性がいいという。だから著者は米だけでなく、使う材料はできる限り地元で調達し、ない場合はより近い場所から探していくようにしているそうだ。「手前味噌」を使い地産地消していた私たちの祖先は、きっと一番その土地の人間の体に合った食生活をしていたのだろう。

 

肥料どころか土を耕すことすら否定する、究極の自然農法という考えがあることは知っていたが、私は今まで有機栽培と自然栽培との違いも、きちんと把握していなかった。けれども、目にも見えない麹菌という微生物が、米の微妙な違いまできちんと察知して働きが変わるという自然の力の偉大さには驚くばかりだ。

 

本を読み始めた時には、著者が考えるパン屋をするために、古民家がある町であることが大切な要素だったということの意味が分からなかったけれど、新建材が使われている新しい建物では、菌が十分に働けないのだという。

 

岡山県の勝山という小さな地方の町に、築百何十年という古民家がたくさん残っていて、昔ながらの職人仕事や安全な食を求める人たちが集まり、地元の人と融合して、今どきの安直な地域活性化ではない、真にその地に根差した豊かな生活が育っているようすに感動し、この本が7か月待ちになるほど多くの人に読まれていることをうれしく思う。

 

 

読んでいる途中から、もうたまらなく「タルマーリー」(お店の名)のパンが食べたくなる。奥さんが担当しているというホームページを見ると、随分立派に展開しているように見える。どうかこの本が評判になってお店が有名なり注文が殺到しても、「働く人がしっかり休む、利潤を出さない」という基本方針を見失わず、自然な商い、自然な経済活動の実践者であり続けてほしい。

 

 

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タルマーリーのパンたち(ホームページより)