これが新時代の情報戦、『情報参謀』を読んだ
この間SPYBOYさんが薦めていらした、小口日出彦氏の本『情報参謀』を読んだ。
小口氏のチームは、テレビ、インターネットのメタデータを集計分析し、政党や政治に対する国民の意識から社会の関心など、政治家に必要な情報を忙しい議員諸氏のために見てすぐ分かる形にして提供する仕事を担当した。遅かれ早かれこうしたデータが世の中のかなりを支配するようにはなるのだろう。分析しアドバイスするのも、そのうちAIがするようになるのかも知れない。
毎日24時間分のテレビのすべての番組を人間が手分けして実際に見て、時間、出演者、話の内容などすべてを手作業でデータ入力したそうだ。それがかなり大変な作業だったようだが、今ではテレビの全録機が出ていて、キーワード検索もできるようだから、そういうものを使えば大分作業は省力化できそうだ。ただ、全録機は政治利用まで考えていないだろうから、データの精密度には差があるかも知れない。
それにしても、実際にテレビ番組を見て意味のないデータをふるいにかけながら内容を入力する作業は、ITよりも人間の方が圧倒的に上回るという点が面白いと思った。もちろん人工知能は飽きることなく疲れも知らず日々学習を続けるので、そのうちこれも人間を凌駕する日が来るのかも知れないけれど、まだまだこのように人間でなければできない「すきま」があちこちに存在するのだろう。
こうしたITを駆使した情報は、当初は週一回のペースでそうしたことに明るい一部の党幹部だけに届けられ、そこからさらに一般の議員が受け止めやすい形にして伝えられていたが、2013年の参議院選挙では自民党の全候補者にタブレット端末が配られ、街頭演説で効果的な話題や注意すべき発言などまで配信したという。
敵失があってもあまり早く叩きすぎると、世間の人々にはまだその失言が知られていないため「いったい何の話?」となってしまって効果がない。しっかりその失言なり失態が世に流布するまで待って、一番効果的なタイミングで叩かなくては意味がないというくだりなど、感心してしまった。そこまで敵が考えて行動しているのだもの、反対派はもっともっと知恵を働かせなくては、世論を作っていけるわけがない。
「あべぴょん」というスマホ専用の無料ゲームアプリまで開発して、ゲームをするうちにいつの間にか自民党の選挙情報にアクセスするよう導かれるなどという作戦まで実行されていたという。反対派はひたすら「安倍首相がメディアのトップを接待で篭絡し味方につけてケシカラン」という批判ばかりだけれど、あちらは何年間も着々とこうした地味で体力を要する作業を続けていたのだ。
著者の小口氏は「ほどほどの努力ではほどほどの幸せもつかめない。一生懸命頑張って、一生懸命働いて、豊かなイチバンの国をつくりましょう」という自民党の積極的思想に共感して、この作戦に全力で協力したと言う。民主党の菅首相(当時)が掲げた「最小不幸社会」は「もうあまり頑張らなくていい、あるものを分けあって、痛みも分かち合って生きていこう」という消極的思想で好きではないと書いている。
この表現は別の立場から言えばまた別の表現になり得るので、ここはそれぞれの考え方だろうが、少なくとも「一生懸命頑張ってイチバンの国に」という思想は、私にはやはりマッチョだなと思える。ならば消極的になってどんどん沈んでいっていいのかと突っ込まれれば明確に反論できないが、どちらかというとのんびり生きたい派の私は、北欧のようにほどほどの位置で高福祉の国になれたらいいのになと思う。
どちらに立つにしろ、これからの世の中はこうした情報を使いこなす能力は必須のものだろう。少数派であればよけいに、情報戦略や知的な作戦はいっそう重要だ。型にはまった批判を繰り返している暇に、こうした本を読んで敵の手の内を知るほうが有効かもしれない。
中学生のNちゃんがテストが近いので、定例の木曜日に続いて昨日も今日も我が家に勉強に来ている。私の所だと気が散らないで能率が上がると言うのだ。おかげで私の方も昨日は古文書の勉強の能率が上がったし、今日はネット書店から届いたこの『情報参謀』を読んでしまうことができた。豊橋市は二学期制なので、昨日成績表をもらったのだそうだ。今回は悪かったようだけれど、次の学年末にもらうとき、少しでも上がってNちゃんの努力が報われたら、私もそれ以上の喜びはない。
今日と明日は町内のお祭り。猫たちは花火の音が苦手だった。
去年のお祭りにはまだ二匹ともいた・・・。