よんばば つれづれ

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松井孝典著『われわれはどこへ行くのか?』

書評を見て読みたくなり、市民館にリクエストした本です。

著者の松井先生は東京大学教授、ご専門は惑星物理学だそうです。地球全体を対象とする「地球とは何ぞや」と問う学問がしたかったのだそうです。でも1960年代の東京大学入学時には"地球"の物理学という学問は存在せず、「地震学」「火山学」「測地学」「海洋物理学」のような個別の物質圏を研究対象とする学問しかなく、本当にしたかった研究ができるようになったのは1980年代になってからだそうです。

壮大な宇宙のスケールから見た地球論人間論で面白いのですが、残念なのは「われわれ」とか「人間圏」とか「生命」とか、言葉の定義にかなり多くのページを割いていて、肝心な「どこへ行くのか」についての言及が物足りない気がしました。確かに言葉の定義が一致しないまま議論しても始まらないのですが、何も討論しようと言うのではなく、読者は松井先生の考えを知りたくて本を手に取るわけですから、私の認識はこれこれですとあっさり述べてくれればいいと思うのです。まあ700円の本ですから論説もそれ分で、もっと深く知りたい方はまた別途・・・ということでしょうか。

ネアンデルタール人は「生物圏」で生きていたが、クロマニヨン人以降の現生人類は農耕を始めることによって「人間圏」を創り出したのだそうです。そして今われわれが1年生きるために動かすモノやエネルギーの移動速度は、地球の営みとしてのそれの10万年分に相当するそうです。人間圏の地球へのインパクトを考える時、そういう時間認識を持たないと考えを誤るとおっしゃいます。そしてそれこそが環境問題の根本の問題だそうです。

確かにそう考えると、なんとかそのスピードを落とさなければ、われわれ人類がこの地球上で生きられる時間はもう残り少ないということが実感できます。そうなれば金持ちや特権階級の人々は他の星に移住するのかもしれませんが、私にとって今のところ現在の地球以上に美しく人類の生存に快適そうな星はありません。私は地球に住み続けたいし、子孫にもなるべく今程度の環境の地球を残してやりたいと思います。

宇宙的視野で考えると、結局地球やモノを所有しているという発想そのものがおかしいと松井先生はおっしゃいます。私も以前から同じように考えていたので、そう、そう、そう、そうなんですよね!と思わず本を掴む手に力が入ってしまいました。人間圏の未来を考える時に、これからは「レンタルの思想」という考え方が重要だろうということです。全て借り物だと考えて暮らしていけば、時間を早めて物質的豊かさを手にしている云々の問題解決も、後からついてくるだろうという説には私もとても共感します。

でも人類がどう努力しようと、地球の星としての命はあと5億年ほどで、現在のような二十世紀的生き方を続けていれば、今世紀の半ばには地球システムに行き詰まりが生じるそうです。太陽系や地球のような存在が宇宙にひとつだけという方が不自然で、必ず同じような星があるはずとのことですので、5億年という星としての寿命を終えるまでには第二の地球が見つかるかもしれません。でも今の10万年分のスピードで人類が暮らし続ければ、代替星を見つける前に地球の終焉を迎えるようなことになりかねません。願わくは特権階級だけが惑星移住して生き延びるのではなく、人類全てが幸せに生き続けられる未来になってほしいものです。