よんばば つれづれ

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どこの教室にもいそうな女の子の物語『マウス』村田沙耶香著

コンビニ人間』に魅了されるあまり、もう少し村田沙耶香さんの著書を読んでみたいと思った。けれども、ネット上で紹介されているあらすじを読むと、『コンビニ人間』とは違って、少々私には読むのが辛そうな傾向の作品が多い。そうしたなかで、これなら・・・と選んだのがこの作品だ。

 

 

主人公の律は小学校5年生になったばかりの女の子。それまでの仲良し二人は別のクラスになってしまい、新しいクラスで、律は注意深く自分と同じような大人しそうな風貌の女の子を探す。ここでうっかりあぶれてしまったりしたら大変なのだ・・・。

 

こんなふうに始まる、大人しい目立たない女の子律の物語。ほぼ対極の女の子だった私はまるで気づきもしなかったけれど、当時自分のクラスにも、きっとこういう気持の女の子がいたんだろうなと、今更ながら考えさせられた。

 

教室には、律以上にクラスから遊離してしまっている瀬里奈という少女がいて、律はその瀬里奈に嫌悪すら覚えながら、あるきっかけから彼女との交流を深めていく。

 

いっぽう瀬里奈は律の言葉や行動に導かれるように、思いもよらない新しい顔を見せ、人気者になり、やがて華やかとさえ言える人生を送るようになる。

 

ホフマン作の『クルミわりとネズミの王さま』という物語を鍵にして、周りとうまく協調できず、自分を持て余しているような、あるいは見放しているような(今風に言えば自己肯定感の弱い)感じだった二人の女の子が、さまざまな体験を通して、作らず、無理せず、自分を受け入れていく様子を細やかに描く成長物語だ。

 

著者の村田さん自身、小学校の5年生のころ「暗い女子」だったと仰っているが、確かに『コンビニ人間』にしろ本作にしろ、周囲の人との距離の取り方に人一倍神経を使ってしまい、それでもなおうまく立ち回ることのできないタイプの人をうまく描き出している。病的と言っていいほどのキャラクターに、読んでいるものが思わず知らず肩入れし愛してしまうところに、著者のうまさを思う。

 

LGBTとかダイバーシティとか、多様性を認めようという声の高まっている現代だけれども、はっきり「マイノリティー」と区分されるまで行かないで、はじかれてしまっている、あるいははじかれていると感じている人も少なくないことだろう。

 

村田さんの作品を読むと、社会の隅でひっそり息をつめてなんとか「普通」であろうともがいている人にまで思いが及び、どんな人もみんな、そのまんまの自分で、自信を持って生きて行ける世の中だったらなあと思わずにいられない。

 

ちょっと手に取るのを躊躇するグロテスクそうな作品を読んでも、果たしてこのような優しい気持ちに包まれる読後感が得られるのだろうか。一度勇気を奮って挑戦してみようか・・・。

 

 

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