よんばば つれづれ

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『花だより みをつくし料理帖 特別巻』高田郁著

入院に備えて買っておいた、大好きな『みをつくし料理帖』の最新刊で、そうして悲しいことに、多分最終巻となる。

 

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このシリーズの本についての感想はこの3冊についてしか書いていない(この他に、ドラマについての感想も書いている)が、シリーズ10冊すべて読んでいる。完結編の『天の梯』が2014年の刊行なので、4年ぶりの『みをつくし』となる。今回は特別巻。主な登場人物たちの後日譚を4つの短編で綴っている。

 

花だよりーー愛し浅蜊佃煮

涼風ありーーその名は岡太夫

秋燕ーー明日の唐汁

月の船を漕ぐーー病知らず

 

と、それぞれの題名は、その話に出てくる料理の名前とセットになっている。「花だより」では種市を中心とする江戸の面々のその後(澪と源斉が大阪に行ったあと)を、「涼風あり」では澪ではない人を妻に選んだ小野寺数馬とその周辺の人々を、「秋燕」では大阪で淡路屋を再建した野江(花魁あさひ太夫)の暮らしぶりを、そして最後の「月の船を漕ぐ」では、澪と源斉の大阪での日々を描いている。

 

10冊のシリーズですっかりなじみになった面々は相変わらずで、ちょっとハラハラさせたりしんみりさせたり、そして最後にホロリと嬉し涙がこぼれるような人情の世界は相変わらず。料理が美味しそうなことも、巻末にその料理法が掲載されているのも変わらない。ああ、みんな変わらず元気そうで良かったね!と肩をたたき合いたくなる。

 

なかでも興味深かったのは、小野寺家の物語「涼風あり」だ。小野寺の妻乙緒(いつを)が蟻の行列に見入っているという実に印象的な初登場シーンで始まる。陰で侍女たちに「とにかく変わっている」「能面のようだ」と評され、実家では屋敷の者たちに「笑わぬ姫君」と呼ばれていた、一風変わった小野寺の妻が非常に魅力的だ。こんなに可愛げのない人物を魅力的に描ける著者の力量に感服する。

 

このような一風変わった女性でありながら、しかもチャーミングだと感じさせてしまう人物だからこそ、読者は澪を選ばなかった小野寺を許すことができる。いや、澪の幸せを考え、おのれの立場を考えて最善の道を選び、しかも自分の妻をも幸せにする小野寺数馬という男を、見直しさえしてしまう。特別巻のVIPは乙緒かもしれない。

 

高田さんが今後このシリーズを書くことはないらしいというのは、ファンにとっては残念なことだけれど、愛すべき登場人物たちは私たちの心の中で生き続けるし、これからさらに面白い作品を生み出してもらえることと思うので、それを楽しみに待ちたい。

 

 

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