よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

ものがたり受難の時代だからこそ・・・『孤軍』笹本稜平著

高齢の資産家が50歳も若い女性と結婚すると間もなく怪死した事件や、プロ棋士藤井聡太七段の破竹の活躍。大怪我から復帰するや、奇跡のようなオリンピック連覇を成し遂げてしまった羽生結弦選手に、プロでありながらピッチャーで四番打者もこなしてしまう大谷翔平選手など、近ごろのフィクションを越えてしまっているようなリアル世界の例を挙げて、ちきりんさんが『ものがたり受難の時代』というエントリを書いていた。

 

たしかにどれも映画やドラマなら、「フィクションだから、いくらでも都合よく劇的な話が作り上げられるよね」と鼻であしらわれてしまいそうだ。それを現実にやってしまう。藤井七段や羽生・大谷両選手たちなどにいたっては、大変さも見せずむしろいとも軽やかにと言ってよいほどに・・・。

 

リアルのほうが面白い時代に、ものがたりを紡ぐことはなるほど難しいことかもしれない。でも、私は思う。そんな時代だからこそ、求められるフィクションもまたあるのではないかと。

 

笹本稜平著の『孤軍』を読んだ。『越境捜査』シリーズの第六弾らしい。この著者も初めてなら、このシリーズも初めてだが、前作を読んでいなくても十分楽しめた。シリーズ化されているし、テレビドラマにもなっているところを見ると人気があるのだろう。

 

出版社のサイトの内容紹介には

「警視庁特命捜査係の鷺沼と神奈川県警の一匹狼・宮野が難事件に挑む『越境捜査』シリーズ最新刊! 六年前、東京都大田区で老人が殺された。億単位の金を遺していたらしいが、見当たらない。その後、連絡の取れない老人の一人娘が、警視庁の首席監察官と結婚していたことが判明。すると、監察から鷺沼らに呼び出しがかかり、捜査に関して探りを入れられる。権力側のキナ臭い動きに鷺沼らは・・・。」

とある。

 

事件の隠ぺいのためあらゆる手段を使う相手に、主人公たちは警視庁ばかりでなく、警察庁も含む国の警察権力全体を敵に回すようなことになり、絶体絶命の窮地に陥るのだけれど、読者の期待を裏切ることなく、物語は実に爽快な勧善懲悪で終わる。このシリーズが人気なのも、きっとこの悪は必ず罰せられるというシンプルさなのではないかと思う。

 

国のトップに立つ人がその力を利用して友人や知人に便宜を図り、その非を追及されると官僚に嘘の答弁をさせ、その答弁を裏付けるために公文書の改ざんまでなされてしまうという、まさにこの小説の筋書き以上のことが現実に起こっている。

 

あちこちからその嘘を暴く証拠が出てくるのに、のらりくらりと嘘に嘘を重ね詭弁で国民を翻弄する。まともな政治を求めるものは、いったいどれだけ証拠を積み重ねれば悪事を認めるのかと、無力感に襲われ、この世に正義はないのかと、深い失望の淵に沈んでしまう。

 

そんな日常だからこそ、せめてフィクションの世界くらいスカッと悪者はやっつけてほしい。刑事ドラマは、必ず巨悪を追い詰め断罪してほしい。変に気取った、モヤモヤした終わり方などしてほしくない。

 

不倫や離婚が珍しくない時代だからこそ、「うっそー!」と思えるほどのピュアな恋を描いてほしい。

 

お金で買えないものなどないと言わんばかりの世相だからこそ、貧しく清く心穏やかに生きる人を描いてほしい。

 

リアルがフィクションを超える時代だからこそ、フィクションの中にしかなくなってしまったものも、あるのではないだろうか。

 

 

それにしても、現実の巨悪が断罪されるのを見たいものだ。

 

 

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