よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

摺師安次郎の魅力が光る『父子ゆえ』梶よう子著

初めての著者だと思ったが、昨年『ことり屋おけい探鳥双紙』を読んでいた。この時は人物描写が今一つ物足りないと感じたのだけれど、今回の作品は、主人公も周辺の人物たちもなかなか魅力的に描かれていた。

 

主人公安次郎の職業の設定も魅力的だ。浮世絵の摺師なのだ。絵師なら歴史上に名を遺す有名どころも多いし物語に登場することも珍しくないが、摺師が登場する話は知らない。浮世絵が、絵師が描いた絵を彫師が何枚もの板を彫って、それから何色もの色で刷り上げるという大まかな知識はあったけれども、色を重ねる技法やぼかしの技法など初めて知ることがたくさんあって、とても興味深かった。

 

安次郎はお産で妻を亡くし、その時生まれた息子は妻の実家に預けて、摺師として働いている。もとは武家の子だったのだが、火事で親兄弟をなくし今の親方に拾われ、摺師として江戸一番といわれる職人になった。

 

安次郎の仕事場である摺師の工房「摺長」を中心に、浮世絵にまつわる事件や、舅姑・主人公の住む長屋の住人らの温かな人情、息子信太との情愛などが描かれる。職人同士の妬み・そねみからの悶着、腕の競い合いや商い上の駆け引きなど面倒な問題も次々起きるが、安次郎のいかにも武家の生まれらしい冷静で筋を通す対し方に惚れ惚れする。

 

また、母を知らず父とは離れ、祖父母に育てられる信太は、幼いながら大人たちを気遣い弱音を吐かずけなげだ。この信太と、厳しいながらも深く息子を思う父安次郎との情愛もこの物語の大きな魅力だ。

 

浮世絵の製作現場を眺めながら、江戸の人情を味わい、時代を超えて通じる人間の生き方に感動させられる、良質なエンターテインメントだった。

 

 

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『いろあわせ』という同じシリーズで先に出ている作品があるようだ。