よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

物語の結末は読者に託される『黄金の騎士団』井上ひさし著

みなしごで「聖母の騎士園・若葉ホーム」で育った主人公外堀公一は、一流企業の新人研修中に、その園の田中文子副園長が骨折で入院し、精神的に心配な状態になっていてしきりにあなたに会いたがっているので、至急見舞に来てほしいという手紙を受け取る。

 

その新人研修は戦時中の軍隊のように非人間的で厳しいもので、どんな事情があろうと途中で抜けることを認めなかったが、公一は大恩人の副園長が心配で、クビを覚悟で脱走する。

 

副園長を見舞い、認知症で徘徊症状も出ている園長と若葉ホームのことを託され、古巣のホームを訪ねると、残された6人の子供たちが経営状態の悪化や地上げの危険などを抱えたホームと園長を守っていた。

 

子供たちの話では「黄金の騎士団」という正体不明の慈善団体が経済面で支えてくれているというのだが・・・。

 

実は子供はこの6人のほかにもうひとり、プロジェリア(早老症)の小早川文夫という大変な能力の持ち主がいるのだけれど、彼は自分の命を削るようにしてみんなの夢の実現ために力を振り絞っていた。

 

 

バブルがはじけたあとの不況の中、幸せはお金じゃないよねなどと束の間人々は口にしたけれど、今はむしろバブル期以上に世の中には拝金主義がはびこり、格差は拡大し殺伐としている。物語の中で、コンピュータや電話といった機械関係だけは少々時代を感じるが、描かれている企業の在り方や働く人への扱い、政治家を取り巻く状況などに全く古さを感じないことが悲しい。

 

本の出版は2011年だが、作品は1988年から翌年にかけて夕刊フジに連載されたものだそうだ。なぜか中断されてしまい、続きが書かれることはないまま、著者は天に召されてしまった。

 

この物語の中で子供たちが目指すのが、「ベンポスタ子ども共和国」を手本にした、自分たちの手で作り上げ運営していく子供のための施設だ。小早川文夫の神がかった能力で資金を作り上げ、候補地も決まりその住民たちの同意も取り付けていたのに、巨大資本が大物政治家を動かして横槍を入れてくる。

 

それを阻止するために子供たちは大芝居を打つことになる。これが奏功し、めでたく子供たちの理想郷が生まれる・・・という結末が読み手の私の希望であり、勝手にそう作り足して満足することはできるのだが、分からないのが、この大芝居のある部分だ。

 

役者の卵たちを集めて政治家の資金集めのパーティーという台本で芝居をし、そういう裏を知らない政治家と資本家側の悪だくみを暴き出そうというのだが、事情を知らされず、本気で認められ脚光を浴びることを夢見て、パーティーの出席者を演じる俳優たちをコケにしているという点だ。最後の最後で演出家が提示するこの問題点に、井上さんはどんな解決法を考えていたのだろう・・・と、この一点が私にはとても気になるところだ。お読みになっていない方にはうまく伝わらない気もするが、その点だけは井上さんの筆になるものを読みたかったと残念で、どうしても触れておきたかった。

 

子供たちが大資本家と渡り合えるほどの経済力をつけた手段は、大豆の先物取引というもので、この説明に分厚い本のかなりが割かれている。そのあたりは私は飛ばし読みしてしまったが、先物取引というものが多少は分かったような気がする。ばくちのようで悪者のイメージしかなかったけれど、物の値段を恣意的に操作しようとするものから守るシステムとして生まれたものだと分かった。

 

それぞれの子供が自分の能力を発揮して集団のかけがえのない一員となり、周囲の大人たちも陰になり日向になりして温かく見守り支える。小早川文夫のような奇跡的な存在もめったにいないし、信彦少年(IQ280)のように賢い子もなかなかいないだろうが、子供は侮れない存在だ。愚かな大人は子供を見くびって、えてしてその能力を削いでしまう。

 

そして、日本の教育ではお金の話はいけないことであるかのように子供から遠ざけてしまっている(そのくせ実際の周囲の大人たちは、往々にしてお金に目の色を変えている)が、きちんとした経済の仕組みを教えることは大切だ。拝金主義は良くないけれども、世の中のかなりの問題が経済的なことで解決がつくことも事実だ。

 

 

それにしても、本作の中に出てきた「ベンポスタ」という夢のような子供たちの国が実在するというのには驚いた。サーカス団で経済収入の大部分を賄っているという。物語の中の子供たちは、それを消えかかっている地方の子供歌舞伎を復興して当てようとした。井上さんの夢見た「ひょうたん島」「吉里吉里国」に次ぐ理想郷だろうか。こんな国が本当にできて、子供たちがのびのびと暮らせたらどんなにいいだろう。

 

 

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