よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

日本初のベストセラーグルメ小説の作者村井弦斎が活躍する『美食探偵』火坂雅志著

今年77冊目の読書。毎年、100冊には届きそうでなかなか届かない。

 

美味しいお料理が出てきそうな期待で手に取った本書だけれど、主人公の美食探偵村井弦斎は実在の人物で、しかもなんと我が豊橋出身の人だった。

 

村井氏が書いた『食道楽』という作品は、小説でありながら、物語の中に600種を超える四季折々の料理や食材が出てきて、しかも料理法も織り込まれているという本邦初のグルメ本。小説としても優れていたようで、明治時代、徳富蘆花の『不如帰』と並んでよく読まれたベストセラー作品だそうだ。

 

実際の村井氏が難事件を解決したかどうかは分からないが、自身の『食道楽』の印税で広い土地を入手し、当時まだ日本では手に入りにくかった西洋野菜なども栽培し、家畜も飼って、それらの食材で料理を楽しんだ。「小児には德育よりも、智育よりも、躰育よりも、食育が先き。躰育、德育の根元も食育にある」と言い、「食育」という考えをそのころから唱えた人だという。このような郷土出身の偉人を、浅学にして全く知らなかった。

 

火坂雅志さんによるこの『美食探偵』では、大磯周辺で起きる事件をその弦斎が見事な推理で解決していく様子を、連作短編形式で書いている。推理そのものを楽しむというより、舞台となる大磯という土地柄や、登場する明治政府の重鎮たちにまつわる話や、当時の人々の暮らしぶりや、美食探偵の村井が口にするハイカラな西洋料理の描写などが興味深いものになっている。

 

本作にも、英語の家庭教師であり親友でもあった英国人女性を殺され、その解決を村井に依頼する女性として第一話から登場する魅力的な尾崎多嘉子嬢は、実際に村井弦斎氏と結ばれた奥様だ。大隈重信の従兄弟の娘というこの小説の設定は、そのまま実際のことだったようで、この物語のどこまでが事実でどこからが火坂氏の創作なのか、などと考えながら読むのも面白い。

 

 

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