よんばば つれづれ

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朱川湊人さんを頼ったら、期待以上だった『オルゴォル』

昨日私は気持ちがどうしようもなく落ち込んでしまって、音楽に頼ったり本に頼ったりした。先日『幸せのプチ』でほのぼのさせてもらった朱川さんの本なら、きっと慰められるだろうと、ちょうど市民館の書棚に並んでいた『オルゴォル』を手に取った。

 

著者を信じて、全くどんなストーリーかも知らないまま読み始めたのだけれど、面白くて一気に読み切ってしまった。

 

両親が離婚したため今は母親と二人で暮らす小学4年生の主人公ハヤトは、ひょんなことで近所のお爺さんから、鹿児島の昔の知り合いに届けてほしいという古いオルゴールを預かることになる。旅費として付けてくれる、2万円という大金に目がくらんでのことだった。しかもそのお金は、前から欲しかったゲーム機の購入でサッサと使ってしまう。

 

ハヤトのクラスで、生真面目で空気を読まないため一人浮いているシンジロウは、なぜかハヤトには親しみを見せる。よりによってそのシンジロウが老人からオルゴールを預かる現場に居合わせ、持ち前の生真面目さからその後もずっとその件をどうするのか気にしている。

 

お爺さんは間もなく死んでしまい、ハヤトはお爺さんが「大変だったら、届けるのは大人になってからでもいい」と言っていたことだしと、オルゴールを届けることなんかどうでもいいやと考えていた。ところがシンジロウが気にしていて忘れさせてくれないためだんだん気がかりになり、仕事で忙しいと言う母の都合で、春休みを大阪で暮らす父親のもとで過ごすことになったとき、オルゴールを持って行って父親に相談することにする。

 

生まれて初めての遠くまでの一人旅にドキドキしながらやっと父のもとに辿りついてみると、父親は一回り以上も年が違う若い女性と一緒に暮らしており、しかも彼女のおなかにはハヤトの弟だか妹だかがいるのだと言う。こんなことなら来るんじゃなかったと後悔するハヤトだったが、事態は意外な方向に展開する。

 

ということで、少年ハヤトは父親のアパートの隣人で広島・長崎に旅行するという若い女性に連れられて、鹿児島までオルゴールを届ける旅に出発することになる。

 

この作品は、少年ハヤトが東京から鹿児島まで旅をするなかで、さまざまな人と出会い不思議な出来事を経験して、短い間に著しい心の成長を見せるロードムービーのような物語だ。実際、映画やドラマにしたらきっと面白い作品になることだろう。

 

ハヤトも10歳には少々重すぎる荷を負っているが、ともに旅することになるサエもまた重いものを抱えている。それゆえか、まだ二十歳かそこいらだというのに、ハヤトの心理を鋭く見抜き、みょうに説教臭いことを口にする。

 

旅の中でサエが明かした、ハヤトの父と暮らすミチコの身の上もまた、明るい人だと感じていたハヤトを驚愕させるものだった。

 

一見明るく屈託なく見える人たちがそれぞれに抱える悲しみや苦しみ。その上で、いや、だからこそ、そうした人々が人に対して示すことのできる優しさ。今世間を騒がせているお坊ちゃんなど、おそらく見ることも聞くこともなかった世界に違いない。

 

とても感動的で心が洗われる物語だった。読みやすいので、本の好きな子なら小学校の高学年あたりでも読めるかも知れない。

 

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