よんばば つれづれ

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『象は忘れない』柳広司著

東京電力福島第一原子力発電所が制御不能となった「あの日」以来、著者が目にした様々な形のテキストをもとに書かれた作品だ。巻末に掲載されている、日本語で書かれた主な参考資料・文献は65に及ぶ。

 

内容は、能の演目からとったタイトルを付けた5つの短篇から成っている。文春のサイトで、著者が「能は、死者やこの世の外の者たちとの邂逅の物語です。古典として後世の様々な物語に引用されることで、実際に観たことがない人でも日本人ならなんとなく内容が身体に滲みこんでいる。千年以上生き残ってきた能の形式を借りることで、読み手が人の想像力をはるかに超えるあの事故を把握し、記憶する手がかりになるのではないかと考えました」と語っているように、能の世界と事故の現実と著者の描く世界が複層的に迫ってくる。

 

 

それぞれの物語のあらすじは、hatehei666さんが詳しく書いてくださっている。

d.hatena.ne.jp

 

道成寺  繰り返し出てくる「フッとふいて、プッとふいて、この家、ふきたおしちゃうぞ!」という、『オオカミと三匹の子ブタ』のセリフが印象に残る。純平が子供のころから「ジェット機が落ちてきても壊れません。それくらい原発の建物は頑丈にできているんです」と聞かされてきた、厚さ2メートルものコンクリートの原子炉建屋の壁が、まるで紙でできた家だったかのように骨組みだけを残して吹き払われてしまった・・・。

 

黒塚  繰り返し出てくる「タスケテ」。瓦礫の下から助けを求める女の声だ。それを聞きつけながら、放射能のために捜索を打ち切らざるを得なくなった慶佑の耳に、何度も何度も蘇る。しかも、避難指示に従って避難したはずなのに、慶佑たちはどんどん線量の高い地域に向かっていた。政府がSPEEDIのデータを公表していれば・・・。そして何より、原発事故さえなければ、「タスケテ」という声の主を救えていた。「原発事故で死んだ人はいない」と言った国会議員に、慶佑はあの声を聞かせてやりたいと思う。

 

卒都婆小町  繰り返し出てくる「ほろすけ、ほーほー ほろすけ、ほーほー」。靖子が幼かった頃、お気に入りでよく口ずさんでいたということば。いま、靖子の娘は回らぬ口で「せしゅーむ、いちさんよん、すとろんちーむ、きゅーじゅう」などと呟いている。母娘で避難した東京で、周囲の人が娘に決して手を触れようとしないことに気付く靖子。傷心の靖子に、ただ一人優しく手を差しのべてくれた上品な老婦人の、思いもかけない正体・・・。

 

善知鳥  ジョージ・ハンターはアメリカ海軍曹長ロナルド・レーガン号に乗艦して「トモダチ作戦」に参加した。ハイチ・ソマリアなど相当ストレスの高い現場に派遣されながら、帰国後のストレステストでほとんど反応を示さなかった彼が、トモダチ作戦のあと深刻なPTSDに陥ったのはなぜか。極秘任務のゼロ作戦とは?彼は思う。作戦名の「トモダチ」は子供がよく使う言葉だと言う。オトモダチ、アリガトウ、オモテナシ。ふん、何がクールジャパンだ。マッカーサーはほとんどの日本人の精神年齢は十二歳で止まっていると言ったというが、この国は70年たってもそのままだ・・・。

 

俊寛  俊寛(としひろ)は家業を継ぎ、有機栽培に取り組んでいた。高校卒業後都会に就職した仲間も、結局地元に帰って来て、昔のような付き合いが戻っていた。優しく子供思いで退職後も近所の子供の勉強をみたりしていた恩師は、仮設住宅に入ってから精神のバランスを崩し餓死とも言える状況で孤独死する。その葬儀の帰途、3人は一緒に飲みながら役人や東電の対応のいい加減さをともに憤るのだが、やがて帰還困難区域と避難指示解除地区に分かれたことから、友人同士の間にも微妙な変化が生じていく。

友人がよその地に引っ越していく車を見送りながら、俊寛は思う。国はオリンピックを誘致してお祭り騒ぎで国民の目を原発事故から逸らせようとする。原発事故などなかったことにしようとしている。みんな本当に忘れてしまったのか。悪いことは忘れたい。嫌なことは忘れたい。覚えていると辛いから。企業も政治家も、忘れさせたいと思っている。

だが、みんなが忘れてしまうから、また悲劇が繰り返されるのではないか・・・

 

 

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豊橋スタンディング+(プラス)とママの会@三河で、今年もPEACE展を開催。

今回はチャリティーと「命」を前面に出して。スナップ写真での参加は1枚100円、一般の作品の出品での参加費は1000円。作品に値段を付けて販売する場合、売れたら半分は本人に還元。そうして経費を引いて収益が出たら、「おいでん(いらっしゃい)福島っこ」という福島の子供を受け入れる保養活動をしている団体に寄付する。