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よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

樹木希林さん主演の『あん』を鑑賞

本、動画等感想 暮らし

公開時、見たいと思いながら例によって我が町豊橋では公開がなく見られなかった映画『あん』。今回スロータウン映画祭(公式サイト:とよはしまちなかスロータウン映画祭2016)で上映作品に取り上げられた。

 

今年で15回目になるこの映画祭、毎年なかなか作品のラインナップは良いのだけれど、前売りチケットを買っても、当日早くから行って並んで整理券をもらわないと見ることができない。そのため行列嫌いの私は、見に出かけたことは数えるほどしかない。

 

今年の作品の中に『あん』があることは知っていたが、また並ばないと見られないと思い込んでいた。ところが、数日前、友人から「土曜日の10時から17時頃まで空いていませんか」とメールが来た。樹木希林さんのトークショウ付のチケットを2枚買っている。全指定席で並ぶこともないと言う。

 

この作品だけは、他の上映作品とは違う扱いであったのだ。あいにく民生委員の会議と新年会が17時から入っていたが、『あん』だけでも見たいと思い、喜んで友人の提案を受けることにした。

 

こんな訳で、昨日、ドリアン助川原作、河瀨直美監督の『あん』を鑑賞することができた。

 

 

満開の桜の中、陰を感じさせる男(永瀬正敏)が一人でやっているどら焼き屋に、老女徳江(樹木希林)がやって来る。「このアルバイトって、ほんとに年齢は何歳でも構わないんですか?」。男がそうだと答えると、彼女は「わたしを働かせてください」と言う。

 

結構力仕事だし、時給も安いですよと男は断るが、かえりしな彼女は「これ食べてみてください」と自分が煮たあずきを置いていく。徳江が帰ったあと一旦は容器ごとゴミ箱に放り込んだ男だったが、思い直して拾い上げ指ですくってひと舐めする。驚いて再び舐める・・・。

 

また店にやってきた徳江に、男はあんを作ってくれと頼み、男と徳江とのどら焼き屋が始まる。やがて徳江のあんは評判を呼び、小さな店の前に行列ができるようになるのだが・・・。

 

 

ただ、何となく良さそうな映画だから見たいと思っただけで、どういう物語なのか全く予備知識なしに見た。風景が美しく、セリフの少ない静かな映画だ。男や徳江はもちろん、店に毎日やって来る女子中学生のワカナ(内田伽羅)まで、それぞれの抱える重い人生の説明はギリギリまで削って、それでも、いや、だからこそ、見る側に強く迫って来るものがある。

 

店に来て最初にあんを煮るとき、男の「何してるんですか?」という問いに、徳江は「大豆の声を聴いているんです。畑からここまでよく来てくれたなあと思って」(セリフは不確か)と答える。彼女のあんは、小豆との対話から生まれていた。あんに限らず、彼女は、動物や植物やこの世のすべてのものの声に、静かに耳を傾ける生き方をしていた。

 

しだいに徳江に影響を受けていく男と少女。

 

けれども世間の心ない噂のため、ある日からパッタリと徳江は姿を現さなくなる。男のもとに届いた彼女からの手紙の住所を頼りに、男と少女は彼女を訪ねていく。穏やかで温かな時間が流れる。

 

その後、男と少女の上にさらに困ることが起き、二人は再び徳江のもとを訪ねるが、彼女の友人(市川悦子)から数日前に徳江が亡くなったことを知らされる。「墓を作ることの許されない私たちは、仲間が亡くなるたびに木を植えるのよ。徳江ちゃんは桜がとても好きだったから、ソメイヨシノにしたの」と、まだ植えたばかりの小さな木を二人に見せる。

 

 

・・・と、今こうしてあらすじを書いていると、また感動がこみ上げてきてしまう。見終わってもしばらく席から立ちあがれない気がした。けれども次のドキュメンタリー映画『わたしの神様』まで1時間しかなく、その間に昼食をとらなければならない。一旦劇場を出てどこか近くの店で食事するとなれば、1時間は短い。やむなく席を立ち友人とランチに行ったのだけれど、感想を話し出すと涙があふれてしまうので、久々に共にする時間だったのに、二人とも口数少なに食事した。

 

 

私たちは、見るため、聞くために生まれてくる。何になれなくても、見ること聞くこと、感じることはできる。意味のない人生なんてない。意味のない存在なんてない。

 

生まれてきたことは、なんて幸せなことだろう。美しい自然の中で生かされている、それだけで、なんて素晴らしいことだろう・・・。

 

 

河瀬監督のほかの作品もぜひ見てみたいと思う。また、ドリアン助川さんは樹木希林さんをイメージして徳江さんを描いたそうだが、その期待に応えて余りある希林さんの演技であった。体調が悪化することもなく、昼頃に新幹線で豊橋に到着なさったようなので、ぜひお話も聞きたかったが、スケジュールの都合でそれはならず、後ろ髪引かれる思いで劇場を後にした。

 

 

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