よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

不幸の分だけちゃんと幸せになるよ・・・シエの優しさに泣く

浅田次郎さんの短編集『姫椿』を読んだ。浅田さんは『蒼穹の昴』のような長編も素晴らしいし、映画にもなって広く知られている『鉄道員』のような短編も素晴らしい。

十数年前に出されたこの短編集には心温まる8編が収められているのだけれど、いきなり冒頭の『シエ(ケモノヘンに解という文字)』でノックアウトされてしまった。コインロッカー生まれで養護施設育ち、職場とアパートを往復するだけの孤独な鈴子は、猫のリンだけがなぐさめ。その大切なリンを自分が食べさせ続けたマグネシウム入りのドライフードのせいで亡くしてしまう。悲しみの底で鈴子は不思議な動物シエと出会う。

シエは顔は麒麟、額に鹿の角を持ち、足には牛の蹄、尻尾は虎、体は鱗に被われた中国の伝説の生きものだという。体の割に頭が大きくちょっと間が抜けてみえて憎めないその生きものを、鈴子はペットショップの老人からもらって帰る。

リンを失った寂しさをみごとにそのシエに慰められて、鈴子とシエの静かで温かな暮らしが始まるが、シエは鈴子が何をやっても食べようとせず・・・。



ほんの40ページほどの短い話なのに、深く心を揺さぶられた。脇役で登場するアパートの管理人さんや隣の部屋の男性もとても良い。


シエのことば「自分のことを不幸だと思っている人間はね、実はちっとも不幸じゃない」。『ゲゲゲの女房』のしげるさんの「自分をかわいそがるのはつまらんことです」と同じ。私の好きな言葉だ。


これから私も桜が咲いたら、麒麟の顔に鹿の角、鱗の体を持つシエを思い出すかも知れない。



たったこれだけタイピングするのに1時間もかかってしまった。うちのシエ・・・ドリームが、キーボードの上を歩こうとしたり、私の指をチュッチュしにきたりと、邪魔ばかりしてくれる。データを消されては大変とパソコンを閉じると、その上に座り込んで舟をこぎ出しそうにトロンとして、それでも暖房の入ったベッドには行こうとしない。私がシエを可愛いと思っているので、嫉妬しているのかも知れない。


追記:「シエ」の字(ケモノヘンに解)が環境依存の文字だったようなので、表記を替えました。