よんばば つれづれ

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素敵な熟年男優5人の『海をゆく者』

小日向文世吉田鋼太郎浅野和之、大谷亮介、平田満、の5人だけの舞台。男くささ(舞台は別の"臭さ"が設定されていて笑えるのだが)ムンムンで、ほとんどみんなアル中状態のしょうもないオヤジばかりなのだけれど、それぞれとても魅力的だった。でもやっぱり今回は「時の人」鋼太郎さんかな、一番光っていたのは(私は『花アン』途中リタイアで彼を見ていないけど)。

舞台はアイルランド。なぜかアイルランドを背景にした映画や演劇にはいい作品が多いような気がするけれど、たまたま私が多く見ているだけだろうか。古くは『ライアンの娘』、ハリソン・フォードブラッド・ピットの共演した『デビル』、去年見た内野聖陽さんの舞台『THE BIG FELLAH』、それからGyaOの無料映画で見たのだけれど『ONCEダブリンの街角で』も地味だけど音楽も見事にマッチしたいい映画だった。これはブロードウェイでミュージカルになっていて、去年は日本でも公演があったようだ。映画も良かったけれど、たしかにミュージカルの舞台にしたらいかにも楽しそうな作品だった。


去年見た内野さんの作品はIRAのメンバーの話で、もろにアイルランドの悲劇的な側面を扱っていたのだけれど、今回の『海を・・・』はそうしたかの地の悲劇性とは直接関係はない。ただ昨日の翻訳者小田島恒志さんのプレトークを聞いたところでは、アイルランドカトリック教徒が多いとのことで、そのあたりが物語の重要なファクターとして関わっているのかも知れない。

3時間の芝居中、禁酒中のシャーキィ(平田満)を除いてほとんど男たちは飲んだくれている。シャーキィの兄のリチャード(吉田)は事故で盲目となったこともあり不機嫌で弟にどなってばかり。風呂も嫌いでだらしなく、悪臭すら放っているらしい。前夜飲み過ぎて潰れリチャードの家の納戸で泊まってしまったアイヴァン(浅野)はドのつく近眼で恐妻家の小心者。途中でこの家を訪ねて来るリチャードの友人ニッキィはこの中ではいくらか普通に見える。けれどもシャーキィの別れた妻と今は一緒にいるらしく、シャーキィとはちょっと気まずそう。そしてそのニッキィが連れて来たロックハート(小日向)なる人物がじつは・・・という話。

この小日向さんがなかなか静かなジワジワと来るコワサをうまく出している。近頃テレビのサスペンス物でも、優しいいい人に見えて意外にも冷血な犯人・・・というような役どころが多くなったようだけれど、この芝居でもそうしたコワサがいきている。

ただ残念なことに少々セリフが聴き取りにくい。昨日のプレトークで小田島さんはセリフはあまり分からなくても構わないと仰っていたが、やはり気になるし、このロックハートのセリフはストーリーの核心にもかかわる部分が多いので、やはり聞き取れなかったのは悔しい。ほかの飲んだくれのグダグダはいいとしても・・・。パルコで見た方たちのレビューにはセリフが聴き取れないということはいっさい見かけないので、やはりプラットが演劇を見るにはまだ少し大きいのかも知れない。

小田島さんのご家族はじめ周辺の方たちは、「さっぱり分からなかった」という感想だった(謙遜もあるのだろうけれど)そうだが、やたら長台詞が多かったり怒鳴ったりがなったり賑やかで、舞台はシッチャカメッチャカで訳分からなくても、終わった時、何とも言えないほんわかと心が温まるものを感じた。人生ってちっともうまくいかないし、つらかったりぐちゃぐちゃだったり投げやりになりたくなっちゃうけど、でも、なんか、生きてるっていいねって、隣の人と肩をたたき合いたくなるような、そんな気持ちにさせられる舞台だった。

昨日小田島さんが「セリフがない時も常にみんな細かい芝居をしているので、今回は吉田さん、次は浅野さん・・・という具合に何度も見ないともったいないくらい」というようなことを仰ったが、確かにこれは役者の演技を堪能し、物語もしっかり味わおうと思ったら、何度も足を運ぶ必要があるし、またそうするだけの密度を持った作品だと感じた。明日のチケットを買っていないのが惜しい。




アイルランドの寒村の中年教師の若く美しい妻と、
そこに赴任してきた凛々しいイギリス軍将校の恋物語
懐かしの映画パンフレットは私が二十歳くらいの時に見た『ライアンの娘』