よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

『おだまり、ローズー子爵夫人付きメイドの回想ー』華麗なる貴族の世界

 

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アメリカ生まれでイギリス子爵夫人、そしてイギリス初の女性国会議員だったというレディ・アスターという実在した人物と、そのお付きメイドとして35年間を共に過ごしたロジーナ(ローズ)・ハリソンという、女性二人の物語だ。

 

ちょうどテレビドラマ『ダウントン・アビー』も見ている(午後11時放送なので毎度録画で遅れてみている)ので、二十世紀初頭のイギリス貴族の世界がより具体的に理解できたように思う。

 

まずは「おだまり、ローズ」と叫ぶレディ・アスターがおよそ「レディ」の枠からは外れた激しい性格の女性で、我儘で問題もいっぱいあるのだけれど憎めない魅力的な人物だからこそ、この物語は成り立っている。

 

そしてメイドのローズも夫人に負けず劣らず気が強く、「おだまり、ローズ」と言われれば言われるほど闘志が燃えるような人物だからこそ、35年もの長きにわたってバトルを繰り返しながら同士のようなきずなを紡いでいけたのだろう。そしてもちろん、読者が読んで楽しめるだけの文章を書く知性も能力も持っていたからこそ。

 

メイドと聞くと何となく家事の延長線のような気がするが、イギリスの貴族の館では使用人だけでも何十人も働いていて、訪れる客人は貴族や政治家はもちろん、国王や皇太子といった身分の方まで珍しくないのだから、仕事は当然秘密を守るという部分まで含めて、プロフェッショナルなものが求められる。

 

ローズは「旅行がしたい」という希望があり、母親の助言で仕事をしながらたくさん海外旅行ができる貴婦人付きのメイドを目指すことになる。そのためには苦しい家計を助けるためにも、手っ取り早くハウスメイドか厨房メイドから始めるというローズに対し、母親は「いったん何々メイドという色がついてしまったら、どうしたってそこから抜けられない。がんばって初めからお付きメイドを目指しなさい」と戦略を授ける。

 

それでローズは2年長く学校に残って勉強を続け、フランス語と婦人服の仕立を習うのだが、労働者階級のさして高くないレベルに生きる母親ではあるが、娘の夢のために的確な助言ができ、その実現のために苦しい暮らしの中で娘の勉学を支える賢さや強さは素晴らしい。

 

日本でも平安時代は宮中に使える女官たち(清少納言紫式部)がキャリアウーマンだった訳だけれど、二十世紀初頭あたりはヨーロッパでも貴族の家庭の上級のメイドはキャリアウーマンだったのだろう。

 

実際ローズの仕事ぶりはとても有能でタフで、そのうえ常に工夫や努力も怠らない。そして自分の仕事に自信と誇りを持っていて、たとえ相手が子爵夫人で自分の雇主であろうと頑として自分の信ずるところは譲らない。そういうローズだからこそ、夫人もまた彼女に絶大な信頼をおき、死ぬまで一番のそばに置いたのだ。

 

この一冊の本の中で、レディ・アスターとメイドのローズという強い個性を放つ二人の女性を縦糸に、貴族の華麗な世界はもちろん、戦争の悲惨さや、また戦争によって世の中が変わっていくさまや、家族愛、宗教などさまざまな問題を横糸として、大タペストリーが織り上げられる。

 

貴族が社会の中心だった最後の時代に、そのまっただ中にいながら、ヨークシャーの素朴な労働者階級の娘として育ったメイドの視点で描かれた、興味深い物語。カズオ・イシグロの『日の名残り』は執事、男性の視点からの物語だけれど、こちらは純粋に小説であるのに対し、『おだまり、ローズ』は実在の人物がモデルで、バーナード・ショーチャーチルも登場するので、イギリスの歴史に詳しいとさらに楽しめるかも知れない。

 

 

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新しく刊行された本では珍しく、ページにぎっしり小さな文字が詰まっている。

364ページだったけれど、最近の普通の本の2冊分のボリュームはゆうにある。

このボリュームがちょっと手ごわいかも?