よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

『夢見る少年の昼と夜』福永武彦著

ちくま文学の森」の11巻目『機械のある世界』を読み終えた。宮沢賢治の『シグナルとシグナレス』とか、アンデルセンの『ナイチンゲール』、ポーの『メルツェルの将棋差し』など、なかなか興味深い作品が入っていたが、一番最後に収録された『夢見る少年の昼と夜』にとりわけ惹かれた。

昭和29年の作品なので、私が生まれて間もない頃のものだ。ギリシャ神話の好きな内気そうな少年太郎の内面世界が見事に描かれている。父親の仕事の関係で太郎は近く転校しなければならない。きっとこの少年にとって新しい人間関係の中に入っていくことは、とても不安なことだろう。しかも太郎には近所に気になっている女の子愛ちゃんがいる。

太郎は転校のための書類を学校にもらいに行き、仲良しの友だちの家に寄って別れを告げたりする。その日、夜は縁日で彼は行きたいのだけれど女中のお鹿さんに禁じられる。いったんは床につくものの昼間鳩時計に「愛チャンニ会エマスヨウニ」と願をかけたのだから、きっと愛ちゃんは縁日で僕を待っていると思い、お鹿さんの目を盗んで家を抜け出す。

友達のお姉さんや学校の女の先生に対して抱くほのかな思いや意地悪したい気持ちなど、いかにも少年らしい危うい心理状態がギリシャ神話を絡めながらとてもうまく表現されている。少年の思いの部分を漢字とカタカナの表記にすることも絶妙な効果を上げている。

子どもの時期は短い。そのはかなさや感じやすさ、もろさといったものを一日の少年の行動で余すところなく表現し、胸が締め付けられような味わい。ああ、失くしてしまったなあ・・・としみじみと思う(私は太郎ほど感じやすい子どもではなかったけれども)。