よんばば つれづれ

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今野敏『晩夏』

テレビでおなじみ『ハンチョウ』シリーズの原作本です。テレビドラマの方は初期のシリーズは好きでしたが、だんだん初めのころの安積班の温かい雰囲気が薄れていって、部下の顔ぶれがすっかり替わったシリーズはもうありきたりの刑事物になってしまいちょっと残念でした。

原作は今回初めて読みました。先にテレビドラマを見ているので、どうしても頭の中で佐々木蔵之助さんや塚地さんが演技してしまいます。でもこの作品はどちらかというと主人公はハンチョウの友人で交機隊の速水さんのようです。ハンチョウと安積班の面々は速水さんの引き立て役及び脇のチョイ役といった感じです。

速水さんはなんと殺人犯の疑いを掛けられてしまうのですが、その対処の仕方(まあ結構つっぱっていますが)もカッコイイし、もう一人今作の重要な登場人物として警視庁捜査一係の矢口という若い刑事が出てくるのですが、このものすごく生意気でめんどくさい若者の扱いがとても上手で、大人として大変カッコイイです。

この矢口くん、警視庁の上司も持て余しているらしくハンチョウとコンビを組ませ、「よろしく指導してくれ」と頼みます(安積に頭を下げるなんて考えられないような人が!)。真面目なハンチョウは責任を感じますが、やることなすことみんな裏目に出てしまう感じで、矢口はことごとく反発し屁理屈こねて口答えし、まあかわいくないこと甚だしく、いまどきの若い人にはこんな子もたくさんいるのかもしれないなあ・・・なんて思いつつ読み手もイライラします。

ところが途中から半ば強引にハンチョウたちの捜査に加わった速水が矢口に関わりだすと、アララ不思議、あの生意気で頑固でやっかいだった矢口くんがみるみる変わっていきます。交通機動隊員としてたくさんの暴走族の若者たちと接してきているので、若者のことがよく分かっているのでしょうか。でも同じ経験をした人がみなそうなれるというものでもないでしょうから、やはり速水の人徳でしょうか。

速水によって変わっていく矢口くんを見ていると、たしかに「近頃の若い者は・・・」などと言っているのは大人の怠慢にすぎないと痛感します。速水のような、自信を持った確固とした大人がいないから、若者もちゃんとした大人になれないのでしょう。

ミステリーの方はあまり深みも新鮮味もなくありがちな展開でしたが、とにかく本作は速水の格好良さと、矢口くんの成長物語が光りました。


★★★クロボシ・・・
昨日の「犬を処分して」はどうやら私の聞き違いで、「家を処分して」だったようです。
そう言われてみればたった一音で、内容は全く違ってきますし、そのほうが筋も通ります。
ワタクシのオッチョコチョイでした。

・・・でも、セリフを言ったのが市原悦子さんとか堺雅人さんだったらきっと聞き違いはなかったでしょう。私は少し片方の耳が悪いのですが、この2人のセリフは聞き取れなかったことがありません。滑舌がすばらしい。それでいて演技にはきちんと深みも翳りも表されて、まさにプロフェッショナルの仕事といつも感心させられます。ま、それを全ての演技者に求める訳にはいかないでしょうけれどね。