よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

中 勘助 『島守』

これは芙蓉の花の形をしてるという湖の、そのひとつの花びらのなかにある住む人もない小島での島守の日々の暮らしの記録です。

そもそも主人公は醜い人間関係の中でほとほと疲れ果てて無人島での暮らしに行き着いたようで、登場する人間といえば主人公の島守の他にはおりおり村から食物を運んでくれる「本陣」と呼ばれる人だけ。あとは電報で危篤が知らされる「妹」や話の中に登場する人のみで、いっそう島守の孤絶感がくっきりし、物語にしんとした緊張感が生まれているように思います。

明治四十四年の九月二十三日から島を離れる十月十七日までの25日間の記録は、ほとんどその日その日の島の植物や生き物、天候、海の様子や食べたもののことで占められ、それらが研ぎ澄まされた美しい言葉で綴られています。がさついた心に清浄な緑の葉においた露が染み渡っていくような心地がします。

とてもこのような潔い生活をする強さは自分にはないけれど、しかしここまで全てをそぎ落とした簡素な生活ができたらどんなに心穏やかだろう、日々が豊かだろうと、とても羨ましい気持ちもしました。

『心洗われる話』。まさにこの標題にふさわしい凛とした美しさにあふれた一篇でした。