よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

佐藤多佳子著『神様がくれた指』

このところ少々タロット占いに興味があって、タロット占い師が登場するこの本を買いました。


主人公マッキーは小さい頃に親をなくし、中華料理店を営む家で育てられたスリの青年です。育ての親はとても全うな料理店のおやじさんとおかみさんなのですが、そこのおじいちゃんが「盗人(ぬすっと)の仁義を重んずる昔気質の紳士的スリの生き残り」の神業的名人のスリで、もともと素質のあったらしいマッキーは子どものころからその「じいちゃん」に仕込まれ、金額よりいかに見事に失敬するかに重きを置く職人気質のスリになります。かなり腕はいいのですが、天敵のような刑事につかまり、1年数ヶ月の刑務所暮らしを終えて出所するところから物語は始まります。

暴力を嫌うこのスリの青年が、電車で遭遇した中高生と思しきスリグループを追跡し、怪我を負わせられて倒れているところを救うのがタロット占い師「赤坂の姫」ことマルチェラ(女として占い師をしているが実は男)です。どうしても少年スリグループを捕まえたいマッキーは、育ての親の家に帰らずマルチェラの住まい兼仕事場の老朽化した洋館に居候するようになるのですが、この生い立ちも生き方もまるで違う二人の男の、微妙な距離感の友情がなかなかいいです。

スリとか占い師とか大家が重要文化財になると思い込んでいる古い洋館とか、道具立ては現実離れしていますが、マッキーがスリを働くシーンなど、著者はどこで(誰に?)どうやってこんなことを取材できたのだろうと不思議になるくらいリアルです。登場人物もなかなか魅力的でグイグイ話にのめりこませます。主人公が昔気質を受け継ぐスリなら、少年スリたちの方は、グループのあり方もひとりひとりの少年少女たちも、いかにも今の時代を反映したものになっています。

どんなに神業的に見事に遂行しようと、スリは犯罪です。でもあまりにマッキーの描写が魅力的で、電車内で彼が仕事をするところなど、ついつい彼に肩入れしてしまいます。罪なお話です。だいたい『神様がくれた指』って、神様は犯罪のために特別な能力をくれたりするのでしょうか。いいえ、マッキーはあの繊細で器用な指できっと新しい真に人を喜ばす仕事を始めると私は思います。凄腕の中華の料理人か、はたまた全く別の何かを始めるか・・・。何にしろ、マッキーがとても大切に思っている("妹"としてではなく)咲(さき)と幸せな家庭を築くために、『神様がくれた指』はお天道様のもとで胸を張って誇れる仕事に生かされると信じます。そしてタロット占い師のマルチェラも、本来の法律の道に戻るような気がします。赤坂の裏道での「街占」でさまざまな人の悩みや苦しみに向き合った経験を生かして、自分を痛めつけたり負い目を感じたりせずに、困っている人の力になる仕事をすることでしょう。

登場人物それぞれの未来への希望を感じる、とても爽やかな締めくくりでした。