よんばば つれづれ

民主主義を機能させる、自立した「ひとり」でありたい

高倉健『あなたへ』を見てきました

先日9時のニュースを見終わると、「プロフェッショナル仕事の流儀」が始まり、今日は誰かしらと思っていると、高倉健さんでした。仁侠映画の華々しいスターだった印象が強いせいか、私は昔から高倉さんにはあまり興味がありません。今回の仕事の流儀はパスしてもいいなと思ったのですが、すぐリモコンを手に取らずにいると、「高倉健、81歳・・・」なんてナレーションで言っています。かなり驚きました。自分の年を考えれば当たり前でもあるのですが、でもあの「健さん」が80過ぎのおじいさんだなんて!

その衝撃で番組を見続けてしまい、そして見終わるとにわか健さんファンになってしまっていました。これは新作『あなたへ』を見に行かなければ。もう健さん主演の新作は最後になってしまうかもしれません。

という訳で本日見てまいりました。観客は6〜7割の入り、ほとんど中年から初老あたりの人々で、夫婦連れらしいカップルも多く見受けられました。

あらすじはあちこちで紹介されている通り、主人公の健さんが亡くなった妻の遺言に従って散骨するため富山から長崎への長いドライブをするという、いわばロードムービーです。途中ビートたけしさんや草なぎ剛さん、佐藤浩市さんらの演ずる人々と出会ってささやかな交流やちょっとした事件が描かれます。やっと長崎にたどり着きますが台風の影響で海は大荒れ、またたとえ海が穏やかになっても、散骨は海に生きる人たちには歓迎されないらしくなかなか船を出してくれる人を見つけられません。そうなるであろうことを知っていて、「困ったらこの人を頼って」と佐藤浩市さんからもらっていたメモのお陰でなんとか妻の願いを果たす・・・というお話です。

私の好きなラッセ・ハルストレム監督の映画の味わいです。特別ドラマチックな事件も起きないし、登場する人たちはどちらかと言えば社会で光の当たっている側の人ではありません。困ったことや辛い事情をそれぞれ抱えてもいます。そうそう、人生って思うようにならないよね、若い頃には思いもよらなかった大変なことやややこしいことが身に降りかかってくるよね・・・と40年50年と生きてきた人間は映画を見ながら共感します。そして見終わるとしみじみと「人生楽じゃないけど、それでもまんざらじゃない、またがんばって生きていこう」と思うのです。

この映画の中では綾瀬はるかさんと三浦貴大さんの演ずるカップルが、そのまだ大した荒波を知らない(綾瀬さんのほうは父親を早くに失うという経験をしているが)ピカピカした若さを感じさせます。この若者たちもやがていろんな試練や苦難に合うことでしょう。でもきっとふたりで力を合わせて乗り越えてね、いい人生を紡いでいって!と祈ってしまいます。大好きと思って一緒になっても、仲が良いまま添い遂げることはとても難しい時代です。兄弟も友人も仲がよくて当たり前のようですが、大人になると結構難しかったりします。大切な身近な人に限らず、映画の中に出てくる美しい日本の風景や人への思いやりといったものも含めて、失くしてから大切さに気付いたり惜しんで泣いたりせずに、自分たちの手の中にあるうちに気付いて、しっかり守ろうねと、低く穏やかな声でささやかれたような気分になる作品でした。台詞一つ二つのちょっとした役まで主役級の俳優さんで、さすが健さん作品という豪華さです。


日本ではいまや真のスターも絶滅危惧種です。高倉健という俳優はその貴重なスターのひとりでしょう。今回NHKの「プロフェッショナル」にお出になったのは、自信の年齢も考えてそろそろちゃんと話しておくか、という気持ちになられたからではないでしょうか。映画では実年齢より20歳ほども若い設定で、奥さんは田中裕子さんです。ネットのレビューには無理を感じたという声も見かけましたが、私は健さんの年を感じさせない体型や身のこなしに驚きました。相当な厳しい自己管理あってのことでしょう。

高倉健」というスターとして生き抜くこの俳優に、拍手を送りたいと思います。